ピカソ作品の新発見!「青の時代」作品の下に隠された絵が赤外線調査で明らかに
パブロ・ピカソの没後50年を迎える2023年を目前にして、アメリカとヨーロッパでピカソ作品の精密調査と修復作業が進んでいます。
作品の赤外線調査を行なったところ、ピカソの「青の時代」の作品群から、その下に別の絵が描かれていたことが判明しました。
画家として無名だった頃のピカソの制作スタイルや当時の心境が伺える新発見について詳しく解説します。
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ピカソの「青の時代」
「青の時代(Blue Period)」とは、パブロ・ピカソが1901〜1904年の間に制作した作品群を指して使われる美術用語です。
この時期のピカソは青や青緑をベースとした作品を多く残しており、盲人や娼婦、乞食など社会的弱者を題材とした作品を描きました。
同じアトリエに住んでいた親友の画家、カルロス・カセヘマス(Carles Casagemas)の自殺に大きなショックを受け、こうした作品群を描き始めた。と後年のピカソは振り返っています。
パブロ・ピカソの没後50周年となる2023年を前に、「青の時代」に描かれた3作品の保存修復研究が行われ、赤外線調査によって新しい発見が続出しています。
2014年には「青い部屋(Blue Room, 1901)」の下に肖像画が見つかり、2018年には「スープ(The Soup, 1903)」の下に別の絵が描かれていることが判明。
さらに「しゃがむ乞食女(Crouching Beggarwoman, 1902)」の下にも風景画が描かれていたことがわかりました。
「青い部屋」(Blue Room, 1901)
青の時代の代表作的な作品「青い部屋」。
この絵は、左側の窓から光が差し込む部屋の中で体を洗う裸の女性が描かれています。
ベースは青色で描かれていますが、画面をよく見るとカラフルなラグや花を飾ったテーブルが描かれていることが分かります。
部屋の壁には3枚の絵がかかっていますが、真ん中に描かれているのはピカソと同時代の画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec)のポスター「メイ ミルトン(May Milton,1895)」です。
「青い部屋」は、アメリカ初の近代美術館「フィリップス・コレクション」に所蔵されています。
開館にあたり、創設者のダンカン・フィリップス(Duncan Phillips)が1927年に購入しました。
アメリカの美術館にピカソの作品が所蔵されたのは当時この作品が3点目となり、前年にはシカゴ美術館が「古いギタリスト(The Old Guitarist, 1903-4)」を。ニューヨークのオルブライト=ノックスギャラリーが「ラ・トワレ(La Toilette, 1906)」を購入しています。
赤外線画像に浮かび上がる男性の肖像画
2014年に行われた赤外線調査により、この絵の下には別の肖像画が描かれていたことが分かりました。
画面を90°画面を回転させると、蝶ネクタイを締め、手に頭を乗せて休んでいる男性の肖像画が浮かび上がります。
ピカソが古い絵の上に新しい絵を重ねて描いた理由は、当時まだ画家として成功しておらず、経済的余裕がなかったからだと推測されています。
当時、20歳前後のピカソにとってキャンバスは高価なものであったため、厚紙に描いた作品も多く残されています。
ピカソは描いている途中でも、作品のテーマや構図を大きく変えて、まったく別の絵を描き始めることに抵抗がなかったということも知られています。
制作時期についても新説が浮上
今回の調査により、肖像画の制作時期は1901年夏の半ばであることが判明。
「青い部屋」の制作時期は、これまで研究者の間では1901年の夏とされてきましたが、この発見により、1901年の秋頃ではないか、という説が浮上しました。
ロートレックは1901年9月に36歳で亡くなっており、この絵が同年の秋に制作されたとすると、室内にロートレックのポスターが描かれている理由もはっきりします。
この研究成果は現在、フィリップス・コレクションで開催中されている「Picasso: Painting the Blue Period」展(6月12日まで)で一般公開されています。
「しゃがむ乞食女」(Crouching Beggarwoman, 1902)
カナダのオンタリオ美術館が所蔵している「しゃがむ乞食女(Crouching Beggarwoman, 1902)」と「スープ(The Soup, 1903)」も、最新の調査によって下に別の絵が隠れていることが分かりました。
「しゃがむ乞食女」は道端に蹲る乞食の女性を描いた作品ですが、赤外線調査により、ピカソはこの絵を描き始めた当初、パンを手にした女性を描こうとしていたということが分かりました。
しかし彼は途中で考えを変えて、マントで女性の両手を覆い隠しています。
マントで身体全体を覆うことで、自然と女性の顔に目が行く構図を生み出し、作品に別の意味を持たせようとしたのです。
また、この作品の下にはバルセロナの公園モチーフとした風景画が描かれていたことが判明しました。
描画方法に違いがあることから、この風景画はピカソ本人が描いたものではなく、アトリエの近くに住んでいた美術大学の学生が描いたものと考えられています。
経済的な事情から古いキャンバスを再利用せざるを得ない状況であったことが分かります。
「スープ」(The Soup, 1903)
同じくカナダのオンタリオ美術館が所蔵する作品「スープ」。
こちらも最新の調査により、スープの入った椀を差し出す女性と少女の間に、背を向けた3人目の女性が描かれていたことが分かりました。
ピカソは制作途中で構図を大きく変更し、一人の女が少女にスープを与える様子を描きました。
ピカソは「スープ」という食べ物が持つ意味、慈悲のイメージを伝えるにはどうすべきかを考え、この構図を思いついたと言います。
彼はこの作品を単に、庶民の普段の生活を描写した「風俗画」にするのではなく、スープというモチーフを通して、壮大なストーリーとメッセージを伝える方法を模索していたのです。
これらの作品は、研究者たちが根気強く作業を続けたことで新事実を発見することができました。
アメリカやヨーロッパの研究者は、ピカソの青の時代の作品群はまだまだ調査が進んでおらず、特にロシアではX線検査はされていても、より精密なスキャンはされていないものが多い、と今後の課題を語っています。
美術館が貴重な絵画を研究施設に運ぶには多大な費用がかかるため、今後よりスムーズな研究プロセスを導入することができれば、世界中の美術館、研究施設で新しい発見の可能性が開かれると研究者らは信じています。
技術の進歩によって今後も新たな発見が生まれ、作品の制作背景や画家の心情などを知るチャンスが生まれていくことを望みます。
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