運慶 快慶とは?仏師の生涯と代表作品・2人の関係について分かりやすく解説
運慶と快慶といえば、東大寺南大門の「金剛力士立像」を造った人物として日本史上とても有名な仏師です。
日本の仏像彫刻に大きな功績を残した両者ですが、2人の作風には明らかな違いがあり、独自の様式を確立していたことが知られています。
今回は運慶、快慶の人生と作品について詳しく解説。
2人の作風の違いや時代背景なども踏まえて、運慶、快慶が作った仏像の魅力をご紹介します。
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運慶とは
平安時代末期から鎌倉時代にかけて活躍した仏師
運慶は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて活躍した仏師で、日本の仏像彫刻を語るうえで欠かせない人物です。
運慶は力強く写実的な新しい様式を確立させ、後世の仏師、彫刻家に多大な影響を与えました。
現存する作品の多くが国宝や重要文化財に指定されており、世界的にも高く評価されています。
「慶派」に所属していた
運慶は「慶派」に所属していた仏師でした。
慶派とは、平安時代末期から続く仏師の一派です。
鎌倉、奈良時代を中心に、「正系仏師」として大きな勢力を持っていました。
名に「慶」の字がつく仏師を多く輩出したことから、後世にこれを「慶派」と呼ぶようになったといわれています。
数々の名仏像を制作
運慶は数多くの名仏像を制作したことで知られており、「運慶作」と推定されているものを含めると30体以上が現存するといわれています。
最も有名な作品ですと、東大寺南大門の両脇に立つ「金剛力士像」があげられますが、「大日如来坐像」などの名作もいくつも制作しています。
運慶の生涯
奈良の仏師・康慶の子として出生
運慶は奈良の仏師・康慶の子として生まれましたが、詳しい生い立ちについては未だにわかっていません。
現存の資料などから推定するに、12世紀半ば頃の生まれといわれています。
現存している最古の作品が1176年に制作された円成寺(奈良)の「大日如来像」であることがわかっており、運慶は若い頃からすでに仏像の制作を行っていたことがわかります。
興福寺再興のため造仏に携わる
1180年の平家の兵火により奈良の東大寺・興福寺が焼失する事件が起こりました。
これによって、慶派は興福寺再興に向けた仕事を受けるようになり、円派・院派とよばれる京都仏師らと分担して再興造仏に携わりました。
この仕事がきっかけとなり、京都仏師の円派・院派と比べ勢力的に劣っていた慶派の評価が上がっていくことになります。
鎌倉幕府との関わり
1186年、運慶は興福寺西金堂の本尊釈迦如来像の制作に携わっていましたが、その後から鎌倉幕府の依頼を受けて仕事をするようになりました。
同年の5月には静岡県伊豆の国市・願成就院の「阿弥陀如来像」などを造り始めていることがわかっており、その3年後には神奈川県横須賀市・浄楽寺の「阿弥陀三尊像」などの造仏も担当しています。
これらのキャリアを経て、かの有名な東大寺南大門の再建にも携わることとなりました。
東大寺の大仏師として活躍
鎌倉幕府関係の仕事の後、運慶は東大寺の大仏師として活躍し、多くの大仏の造立に携わっていきました。
1203年には東大寺南大門の「金剛力士像」の制作を担当し、わずか2か月の制作期間で完成させたといわれています。
この功績によって、運慶は奈良系統の仏師としては初めて、僧綱の最上位である「法印(ほういん)」の位に任ぜられました。
*僧綱…僧侶の位階(僧位)の最上位で、法印大和尚(だいわじょう)位僧正という。本来は定まった定員があったが、時代とともにその数を増し、のちに仏師や絵師の敬称にまで用いられるようになった。
快慶とは
鎌倉時代に活動した仏師
快慶は鎌倉時代に活動した慶派の仏師です。
同時期に活躍した運慶とともに鎌倉時代を代表する人物として知られています。
理知的で繊細な作風は「安阿弥様(あんなみよう)」と呼ばれ、その絵画的な美しさは後世の仏像彫刻に大きな影響を与えました。
1メートル以下の阿弥陀如来像などの作品を得意とし、現存作の多くに銘が残っていることも大きな特徴です。
「慶派」の仏師
快慶は運慶と同じ慶派の仏師ですが、2人の間に血縁関係はありませんでした。
運慶は慶派の頭領であった康慶の実子でしたが、快慶は康慶の弟子であり、2人は兄弟弟子の関係にあったようです。
快慶は慶派の中でも非常に優秀な弟子であり、運慶と並んで慶派の勢力拡大に大きく貢献した人物であるといえます。
東大寺大仏再興の僧・重源に重用される
快慶は東大寺大仏再興の勧進職を務める僧・重源と深い関係にあったといわれています。
重源は快慶に仕事を依頼する立場でしたが、快慶は単純に仕事として重源に従っていたわけではなく、熱心な阿弥陀信仰者として造像を行っていたことがわかっています。
快慶の作品には東大寺の「僧形八幡神坐像」、同寺・俊乗堂の「阿弥陀如来立像」など、重源関連のものが多くあり、重源は長年に渡って快慶の精神的指導者としての立場も担っていたことが窺えます。
快慶の生涯
生没年は不明
快慶の生年は未だに明らかになっていません。
資料上の所見は、1183年に仏師運慶が願主となって制作された「運慶願経」で、巻末に結縁者の一人として名前が出てきます。
また、没年についても詳しいことは分かっていませんが、快慶の弟子・行快によって制作された京都・極楽寺の「阿弥陀如来立像」の胎内から発見された文書に、嘉禄3年(1227年)の年紀と「過去法眼快慶」の記述が確認されたことから、この時点で快慶が故人であったことがわかっています。
興福寺・東大寺の再興に携わる
快慶は運慶と同じく、平重衡の兵火によって焼失した東大寺・興福寺の再興造仏に携わりました。
特に有名なのが、運慶らとともに参加した南大門の「金剛力士(仁王)像」の造立です。
当時の記録からは、この再興において快慶の功績がとても大きなものであったことが分かっています。
熱心な阿弥陀信仰者
快慶は多くの阿弥陀如来像を制作していることから、熱心な阿弥陀信仰者であることが窺えます。
このことは、東大寺大仏再興の大勧進・重源と快慶が深い交流を持っていたことからも推測でき、熱心な阿弥陀信仰を精神的支柱として数々の名作を造り出していたことがわかります。
運慶と快慶の関係性
同時期に活躍した運慶と快慶ですが、2人は兄弟弟子の関係であり、運慶の方が慶派一門の中では立場が上だったとされています。
運慶の方が実績があり、世間からも巨匠としてよく知られていたのに対して、快慶は当時、運慶ほどの知名度を持っていませんでした。
それなのに何故、快慶は運慶と並んで金剛力士像の造仏を任せられたのか。
それは重源による推薦の効果が大きかったといわれています。
運慶と快慶の作風の違い
運慶と快慶はその作風が大きく異なります。
運慶は力強く躍動感あふれる作品を多く残し、力強い作風を好んだ武士階級から大きな人気を得ていました。
一方で快慶は、絵画的で繊細な作風を持っていました。
客層を特定せず制作を行った快慶は、様々な場所で造仏を行い、運慶に比べ民衆に近い存在であったと考えられています。
運慶の代表作品(※確定しているもの)
大日如来坐像(円城寺)
円城寺の「大日如来坐像」は、運慶のデビュー作であると考えられています。
如来像の若々しい表情、体躯が見事に表現されており、若き日の運慶の中に溢れる気力が伝わってくるような作品です。
また、目の部分に水晶を埋め込んで用いる玉眼の技法もデビュー当時から取り入れていました。
阿弥陀如来坐像、不動明王及び二童子立像、毘沙門天立像(願成就院)
願成就院に所蔵されている「阿弥陀如来坐像」「不動明王および二童子立像」「毘沙門天立像」の4体は、鎌倉幕府の依頼を受けて制作された仏像で、運慶が30代中頃に制作したと考えられています。
鎌倉新様式が確立された作品郡であり、日本の仏像彫刻において大きな意義を持つといわれています。
金剛力士立像(東大寺南大門)
多くの人が運慶といえば真っ先にこの作品を思い浮かべるほど、東大寺南大門の「金剛力士立像」は世界的にも有名な仏像です。
口を開いた阿形・口をへの字に結んだ吽形の2体が制作され、迫力溢れる表情と力強い立ち姿、流れるような衣服の質感など、運慶の特徴が遺憾なく発揮されています。
本作はわずか2か月ほどの短い制作期間で制作され、「寄木造」と呼ばれる分業による制作方法によって完成されました。
北円堂諸仏(興福寺)
興福寺・北円堂にある「弥勒仏坐像」「無著菩薩」「世親菩薩立像」の諸仏は、運慶が率いる慶派一門による制作によって1212年頃に完成されました。
いずれの作品も、すべて国宝に指定されています。
運慶は弟子たちに制作の指導を行い、その弟子たちが造仏を担当したとされています。
大威徳明王像(称名寺光明院)
称名寺光明院の「大威徳明王像」は、最晩年の運慶が1216年に制作した貴重な作品です。
もともとは大日如来、愛染明王とともに三尊を構成していましたが、現在ではこの一体だけが残っています。
2007年に運慶の作であることが判明し、像内から法印運慶が造った旨の記載がある納入文書が発見されました。
快慶の代表作品
弥勒菩薩立像(興福寺旧蔵)
興福寺旧蔵にある「弥勒菩薩立像」は、現存している快慶の作品の中で最も古いものです。
優雅で繊細な快慶の作風がまだ確立していない時期に制作された作品であるため、その特徴はあまりみられませんが、知的で落ち着いた表情や、両脇に垂れ下がる布の質感に快慶の仏師としての技量の高さがすでに表れています。
弥勒菩薩座像(醍醐寺三宝院)
醍醐寺三宝院の「弥勒菩薩座像」は、1192年に後白河法皇の追善供養として快慶によって造仏されました。
快慶初期の作品ですが、写実的かつ優雅で繊細な彼の作風がすでに表れています。
この頃の快慶は無位であったにもかかわらず、後白河追善の造像に抜擢されていることから、彼の立場が康慶の弟子の中でも特殊なものであったことが窺えます。
阿弥陀三尊立像(浄土寺)
浄土寺の「阿弥陀三尊立像」は、快慶の代表作としてよく知られている仏像です。
三尊で構成される本作は、阿弥陀如来像が高さ5.3m、両脇侍立像は高さ3.7mもある巨大なものです。
設置されている浄土堂内では外光の反射経路が計算されており、夕日が差し込むと三尊が幻想的な輝きを放ち、極楽浄土を表現したかのような光の演出効果が楽しめます。
僧形八幡菩薩坐像(東大寺)
「僧形八幡神坐像」は、平氏の焼き討ちにより焼失した東大寺再興に向け、重源から委嘱を受けた快慶が制作しました。
本作は、彼の代表作として最も有名なものといえます。
徹底された写実的表現と鮮やかな彩色が見事な作品で、鎌倉時代の仏像彫刻において頂点に位置するといっても過言ではない大傑作です。
宝冠阿弥陀如来坐像(耕三寺)
現広島・耕山寺蔵にある「宝冠阿弥陀如来像」は、1201年に快慶によって制作されました。
快慶らしい形の整った穏やかな作風で、宝冠を付けていることが阿弥陀像としては珍しい形式といえます。
現在は耕三寺博物館に常設展示されています。
金剛力士立像(東大寺南大門)
東大寺南大門の「金剛力士立像」は運慶と快慶が中心となって造られたことはあまりにも有名です。
阿形が手にしている金剛杵には、「建仁三年七月二十四日始之、大仏師法眼運慶、アン(梵字)阿弥陀佛」の記述があり、「アン(梵字)阿弥陀佛」は、快慶が当時名乗っていた名前とされています。
このように運慶と並んで制作の中心的立場にいたことから、慶派一門の弟子の中でも快慶がいかに優秀で特別な立場にいたかがわかります。
文殊五尊像(安倍文殊院)
安倍文殊院の「文殊五尊像」は1203〜1220年の間、約17年もの制作期間を経て造られた大作です。
中央に位置する「木造騎獅文殊菩薩像」は高さが約7メートルあり、現存する国内の文殊菩薩像の中では最大級です。
本作は群像構成となっており、優填王、仏陀波利三蔵、最勝老人、善財童子が木造騎獅文殊菩薩のお供をしている様子が表現されていることが特徴です。
2013年2月27日に国宝に指定されたことで大きな話題となりました。
運慶 快慶のおすすめ関連書籍
「週刊日本の美をめぐる19 運慶と快慶 肉体を彫る」
2002年に出版されたこのムック本は、運慶と快慶が活躍した時代背景とその生涯を数々の名作とともに振り返る内容となっています。
南都の焼き討ちと復興、慶派の誕生、運慶の子供たちなどについても解説があり、慶派の魅力について深く知ることができます。
「究極の美仏 運慶と快慶」
本書は運慶と快慶の傑作を撮り下ろしの写真で掲載した完全保存版ともいえる一冊です。
専門的な解説や記事もかなり充実しており、籔内佐斗司さん、みうらじゅんさん、篠原ともえさんが運慶と快慶の魅力を語る特集なども掲載されています。
運慶と快慶のファンであれば、一冊持っておきたい良書です。
まとめ
金剛力士立像の大きな功績によって一緒に語られることの多い運慶と快慶ですが、制作された作品を追っていくと両者には明確な作風の違いがあることがわかります。
日本の仏像彫刻史上で絶対に欠かせない二人ですが、同じ慶派でありながらも独自のスタイルを確立していった両者の作品を見比べてみるのもよいのではないでしょうか。
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