2018/03/20
アート/Art

0から学ぶ西洋美術史 ~17世紀・バロック~

バロック 絵画

カラヴァッジョ作「聖マタイの召命」

 

古典主義の端正な美に対し、曲線を中心とした過剰ともいえる装飾をみせる建築が

16世紀後半、ローマに生まれます。

17世紀の絵画の総称的呼び名、バロックの始まりです。

偉大さ

これはバロックをより理解するためのキーワードです。

 

バロック音楽では、バッハ作曲の「G線上のアリア」やヴィヴァルディ作曲の「四季~春」が有名ですね。

 

では、“偉大な絵画”とは一体何でしょうか?

 

イタリア

対抗宗教改革の運動の舞台となったイタリアは、

光と影、あるいは静と動を対比的に強調した、情動的な作品が描かれます。

 

対抗宗教改革とは

ルターやカルヴァンなどの宗教改革によって登場した「新教徒=プロテスタント」の運動が強大となったことに危機感を持ったローマ教皇側が、プロテスタントを弾圧するだけでなく、カトリックの教皇庁や教会のあり方を改める運動を起こしました。

そのカトリック改革を「対抗宗教改革」または「反宗教改革」といいます。

 

こうした時代背景のなか、二つの都市がバロック芸術の拠点になります。

一つ目は、北イタリアに位置するボローニャです。

 

ボローニャ

ボローニャ出身の画家アンニーバレ・カラッチ

「ポリュフェモスとガラテア」を見てみましょう。

 

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アンニーバレ・カラッチ作
「ポリュフェモスとガラテア」

 

美しい海のニンフに恋をした一つ目巨人ポリュフェモスが、彼女のために音楽を奏でる神話の一場面です。

 

ミケランジェロを思わせる量感にあふれる人間像、大きさ、表現力。

絵の前に立つだけで、交響曲のように観る者の気持ちを高揚させます。

 

同じくアンニーバレ・カラッチ作「ウェヌスとアドニス」も見てみましょう。

 

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アンニーバレ・カラッチ作「ウェヌスとアドニス」

 

この魅力的な裸婦像は、

細かい肌質感

生命力にあふれた量感表現

など、ラファエロのような穏やかで優美な古典主義を思わせ、

一方で、裸婦像(ここでは女神を描いている)にはヴェネツィア派の芸術が入り込んでいます。

 

地理的にボローニャはヴェネツィアとローマの中間に位置しているため、

世紀末になってから、それぞれの文化がボローニャで統合されたのでした。

 

16世紀後半からは、アカデミーと呼ばれる芸術施設が誕生します。

アンニーバレ・カラッチ(弟)の兄、アゴスティーノと従兄弟ルドヴィーゴといった、カラッチ一族によって、16世紀イタリア芸術を理想とした、

美を理論化しながら若い画家を育成する施設として美術アカデミーを設立しました。

 

ローマ

ローマはボローニャと並び、バロックの拠点になった都市です。

 

光と影の魔術師と呼ばれる、バロック芸術最大の画家の一人、カラヴァッジョ

この絵はカラヴァッジョ作「聖マタイの殉職」です。

 

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カラヴァッジョ作「聖マタイの殉職」

 

左上から差し込むドラマチックな陽光によって、物語に緊張感が与えられています。

 

聖人は腕をつかまれながら、天使が差し出す殉職者のしるし、

棕櫚(しゅろ)の枝をつかもうとしています。

 

間近に迫った死と、天上界での新しい生への約束。

それを一枚の中に集約した臨場感のある絵画です。

 

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カラヴァッジョ作「聖ペテロの磔刑」

 

磔にされる聖ペテロの、リアリティが追求された描写に注目して下さい。

聖人は一切理想化されず、
彼を十字架にはりつける人物の表情とあまり変わりません。

 

そのドキュメンタリー的な表現によって、

カラヴァッジョは真実は空想の中にではなく、目の前の現実にあるということを示しています。

 

カラヴァッジョの人生も波乱万丈なものでした。

彼は初めて「人殺し」をした画家とも言われています。

 

ローマで殺人事件を起こし、逃亡生活の中38歳という若さでこの世を去りました。

しかし、彼の作品は当時センセーションを巻き起こし、のちの大作家レンブラントラ・トゥールフェルメールをはじめ、多くの画家に影響を与えました。

 

フランス

当時のフランスは、ルイ14世の絶対王政の真っ只中でした。

 

絵画は宮廷に奉仕する性格を強め、バロック調よりも荘厳な古典主義が好まれました。

バロック建築で有名なヴェルサイユ宮殿もこの時代に建設されています。

 

その時代に活躍した画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール。

 

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ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作「ヴィエール弾き」

 

乞食で盲目の楽士が歌う姿を描いた作品です。

 

それでも生き抜いていかなばならない人生の重みが伝わってきます。

彼は「夜の絵画」と呼ばれる、
蝋燭の明かりに照らし出された宗教画や風俗画で名声を得ると、ルイ13世の宮廷画家として活躍しますが、死後その存在は長い間忘れられていました。

 

再発見されたのは20世紀になってからのことです。

 

次に、古典主義が主流の中、活躍した画家プッサンの「聖パウロの法悦」を見てみましょう。

 

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プッサン作「聖パウロの法悦」

 

光の中に聖人と天使たちがしっかりと描かれ、
単純化された建築と静かな午後のローマに起こった、奇跡のような印象を与えます。

 

しかし、同じくプッサン作「アシドドの疫病」はどうでしょうか。

 

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プッサン作「アシドドの疫病」

 

神罰として町に疫病が蔓延する場面を、まるでパニック映画の一場面のように描いています。

 

手前には、死んだ母親にすがる赤子、奥には動揺しつつも死体を片付けることしかできない人間たちを描き、背景の重々しい神殿がより緊迫感を演出しています。

 

彼のこのような古典主義な表現は、フランス・アカデミーの模範になりました。

フランス・アカデミーは17世紀に設立)

 

 

もう一人、当時のフランスで有名な画家クロード・ジュレをご紹介します。

彼は、当時台頭しつつあった風景画の分野で、優れた作品を残しました。

 

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クロード・ジュレ作
「クリセイスを父親に返すオデゥッセウス」

 

教科書等で一度は目にした方も多いのではないでしょうか。

 

逆光を上手く捉えた海の風景画です。

現実の風景を、まるで荘厳なオペラを見ているかのように表現した彼の風景画は大人気を博し、ようやく台頭しつつあった風景画を、正当な絵画として認めさせるのに大きく貢献しました。

 

オランダ

フランドルの北に位置する新教国オランダはこの時期に独立しました。

 

また、東インド会社による豊かな経済力を背景に、絵画の黄金時代を迎えます。

 

パトロンと画家という関係以外にも、画商と顧客という新しい関係が定着し、風景画・静物画といった絵画が市民生活の中に自然と溶け込んでいきます。

 

ここでラ・トゥールと同じく忘れられた巨匠として19世紀に再評価された、

17世紀オランダ絵画の巨匠、フェルメールの作品を紹介しましょう。

 

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フェルメール作「レースを編む女」

 

ありふれた日常をテーマにした小作品ですが、

長い間見ていると、静かな光に支配された世界へと誘われていくような感覚を鑑賞者に与えます。

 

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フェルメール作「士官と笑う娘」

 

何気ない日常の一瞬をとらえた作品です。

構図を計算つくした上でシャッターを切る写真家のように、日常生活のちょっとした瞬間の中に、フェルメールは素晴らしい光のドラマを見出し、それを絵画に起こしました。

 

オランダの豊かな市民社会には、身近な世界に喜びを見出す絵画が次々に生まれました。

 

画家デ・ホーホは、裕福な中産層の家庭を表現するのに優れた画家です。

 

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デ・ホーホ作「東屋のある中庭で酒を飲む人々」

 

彼は、人と人が集う人生のささやかな日常を描きました。

一方、画家ヤン・ステーン風刺的な視線によって、当時の社会をユーモラスに描きました。

 

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ヤン・ステーン作「親にならって子も唄う」

 

忘れてはいけないのがアムステルダムの画家レンブラント

彼は、カラヴァッジョの光と影の効果を取り入れました。

 

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レンブラント作「夜警」

 

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レンブラント作「屠殺された牛」

 

どちらの作品も、その当時需要が高まりつつあった静止画です。

 

一見何も変哲もない静止画の中で、

レンブラントは犠牲の上に成り立つ人生の意味を私たちに問いかけているようにも感じます。

強烈な赤も、生へのあらがいたい欲求を象徴しているように見えます。

 

人気作家であったレンブラントは、次々に重要な注文を受け名声を確かなものにしていく中で、コレクションに莫大な資金をつぎ込み破産、妻子に先立たれるなど、その生涯は決して恵まれたものではありませんでした。

 

人生の悲哀を味わいながら生きることを問い続けた彼の作品が現代でも愛され続けるのは、彼の内面に不思議と見る者も共感してしまうためかもしれません。 

風景画 静物画 肖像画
歴史画 風俗画

など、さまざまなジャンルに特化した作品を描いた当時のオランダ人画家たちの絵画技術は非常に高く、20世紀のモダニズム萌芽まで美術界に影響を与え続けました。

 

フランドル

15世紀には画家ファン・フェイク兄弟、画家ロヒールを、

16世紀には画家ブリューゲルといった偉大な画家を輩出してきたフランドル。

 

17世紀はフランドル最大の画家であり、バロック芸術を頂点まで推し進めた大作家ルーベンスが誕生します。

「フランダースの犬」の主人公ネロが憧れ、最期に見た絵画も、ルーベンス作品としてよく知られていますよね。

 

こちらが、「フランダースの犬」でネロが最期に見た大作「十字架降下」

 

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ルーベンス作「十字架降下」

 

こちらが同じくアントワープ大聖堂に飾られている「十字架昇架」です。

 

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ルーベンス作「十字架昇架」

 

 

構図に注目して見てみましょう。

二つの絵は、対の構造を持っています。

 

また、カラヴァッジョを思わせる一条の光によって、私たちの視線は、宙を舞うキリストに向けられます。

その姿は「受難の人」というよりは、アスリートのような筋肉と艶やかな肌を持った美しい姿として描かれています。

 

色彩においてはヴェネツィア派の巨匠ティティアーノの色彩を思わせる、赤・白・青が際立った美しさがあります。

 

ルーベンスは悲惨な宗教的場面であっても、それを豪華に変貌させ、バロック時代にふさわしい壮大な宗教画に仕上げたのでした。

 

同じくルーベンス作の「三美神」

 

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ルーベンス作「三美神」

 

エナメルを思わせる質感と、輝くような色彩。

肌の艶やかさには健康的なイメージがあふれています。

 

ヴェネツィア派から学び取った色彩に、バロックの軽やかな音楽を重ね合わせた作品です。

ルーベンスは女神たちを幸福の代名詞として描きました。

 

まとめ

バロック 絵画

ルーベンス作「東方三博士の礼拝」

 

17世紀バロック時代は、
それまでの古典主義を土台にそれぞれの政治的事情を反映し、各国の美術が独自の発展を遂げた時代でした。

光と影のドラマチックな表現

絵画としての権利を得た静止画

画商・顧客の誕生

美術アカデミーの誕生

など、芸術がより大衆に近づいた時代でもありました。

 

絶対王政や宗教が人々を支配していた時代でもありましたが、18世紀に入ると、その体制にも少しずつ陰りが見えはじめます。

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