風刺画の傑作まとめ18選!歴史的に有名な風刺画とその背景を解説
痛烈な政治および社会への批判を、絵画というソフトな手法で表現する風刺画。
風刺詩という形では紀元前5世紀からすでにギリシャに存在しましたが、風刺画は18世紀の石版画技術の発明よって大量生産が可能になったことにより、ジャーナリズムの1つとして新聞や雑誌に登場し、世の中に浸透していきました。
風刺画を見ると、その時代の表の歴史と、それを庶民がどう感じていたかが非常によくわかります。
今回は誰もが一度は見た事がある歴史の有名な風刺画を紹介。その裏にある真実を絵の中から読み抜いていきましょう!
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風刺画とは?
社会を皮肉る漫画
毎日を過ごしていると、不合理なことや矛盾したことが起こっていることに気づきます。
すべてが杓子定規に進まないことはもちろんですが、目に余るようなことも起こっているのが事実です。
そういうものを皮肉を込めて1枚の絵として批判している漫画アート作品が「風刺画」です。
風刺画の対象となるのは人間や社会、国家権力などですが、それを物、動物などを比喩として描きながら人間性への批判を暗に訴えています。
ユーモアを交えながら表現し、見る人がどれだけ背景を分かっているかによって見え方が違ってくるというのも風刺画の特長です。
ビゴーと風刺週刊誌『トバエ』
日本の明治期の風刺画作家として有名なのがフランス人画家ジョルジュ・ビゴー。
日本では伊藤博文や板垣退助が現代日本の基礎を作るために奔走していた1980年代に来日し、一般庶民の目線で当時の日本の風刺画をたくさん残しています。
ビゴーの風刺画は、当時の庶民からみた政治やその他の出来事を風刺としてあらわしていると同時に、外国人からみた日本の生活様式を表しているものとして貴重な資料となっています。
そのビゴーが1887年に創刊したのが風刺漫画雑誌『トバエ』です。
日本に居留していたフランス人向けに日本の政治を中心として風刺漫画を集めて発刊していました。
歴史的に有名な風刺画18選
鳥羽僧正覚猷「鳥獣戯画」(12世紀中期〜13世紀初頭)
漫画やアニメのルーツとされている鳥獣戯画は、お寺の子供たちに行事を教えるためであったり、娯楽のために描かれたというのが通説でしたが、現在では風刺画としての側面もあったのではないかという解釈もされています。
鳥獣戯画には様々な擬人化した動物たちが、人まねをして遊ぶ様子を描いていますが、全巻を通して賭博遊びをしてる描写から俗世を風刺した作品ではないかと言われているようです。
加えて、西洋美術では風刺画を描く際によく人間を動物に見立てて描く手法がとられているのも、鳥獣戯画を風刺画と解釈する要因の一つになっています。
作者不詳「重税に苦しむ第三身分」(1789年頃)
フランス革命前の状態を表した風刺画。石(税)の上に乗る聖職者と貴族が平民を押しつぶしている様子が描かれています。
革命前のフランスには封建社会の身分制度が存在しており、第一身分が聖職者(左)、第二身分は貴族(右)、そして最も身分が低い第三身分の平民に税金の負担を押し付け、聖職者と貴族は悠々自適な生活を送っていました。
また、平民の足元に小さく描かれている「洋ナシ」には「お人好し」「騙されやすい」という意味があります。このことから「あなたたち平民は国に騙されている!」ということ人々に警告するためのビラだったとも言われています。
作者不詳「第三身分の目覚め」(1789年頃)
そして、こちらはフランス革命後の状態を表した風刺画です。驚きと怯えを浮かべる聖職者と貴族の目線の先には、これまで虐げてきた平民が圧政の鎖を断ち切る様子が描かれています。
その背景には、圧政の象徴であったバスティーユが取り壊され、民衆が貴族たちの首を掲げている様子が描かれており、フランス革命の成功が伺えます。
革命後は絶対王政が崩壊し、身分制の撤廃、封建制の廃止が果たされ、民主的な国へと生まれ変わっていきました。
作者不詳「会議は踊る、されど進まず」(1814〜15年)
オーストリアの外相:メッテルニヒによって開かれた「ウィーン会議」の様子を描いた作品。会議の円満な進行をめざしてオーストリア政府が舞踏会や宴会を開くが、利害が対立して一向に審議が進まないことを風刺しています。
この会議はフランス革命とナポレオンによる混乱に終止符を打ち、新しい国際秩序を確立するために開かれた会議でした。しかし蓋を開けば、どの国も自国に有利な条件や領土を獲得するために思案を巡らせ、腹の探り合いをするばかりで会議は進捗しません。
ついには舞踏会などでいたずらに時間を浪費する代表たちの様子が、「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されました。
作者不詳「搾取される労働者」(19世紀初頭)
この画は資本家が労働者を酷使・搾取して、利益(お金)を得ていることを風刺したものです。
産業革命による技術革新でその制度が確立された資本主義。
しかし、それは資本家と労働者の階級を生み、「労働者は過酷な環境での長時間労働を強いられ、資本家はそこから出た利益で私腹を肥やす。」という構図が完成してしまいました。
中には死ぬまで使い潰される労働者もおり、まさにこの画のように「搾り取れるだけ搾り取ったら捨てられる」なんてことが現実に起こっていたのです。
フレデリック・ローズ「ロシア侵攻」(1870年頃)
この巨大なタコに見立てられたロシアは、当時南下政策を押し進めるロシアが手当たり次第、周辺各国に侵攻している様子を風刺したものです。
この風刺画の後も、ロシアをタコやクマに見立てた世界地図はいくつも製作され、日本でも「滑稽欧亜外交地図」と題されたものが、日露戦争開始直後に発売されています。
ビゴー「メンザレ号の救助」(1886年)
フランスの郵便船メンザレ号が上海沖で沈没した事件との題名がありますが、題材はこの事件の1年前に起こったイギリス船ノルマントン号事件。
紀伊半島の沖で沈没した際に、西洋人乗組員はほとんどが救助されたにもかかわらず日本人乗客は全員死亡した事件を風刺しイギリスへの批判をしています。
この画の上の方で沈没している船はフランス国旗が掲げられていますが、遭難している人はすべて日本人、救助ボートにはイギリス国旗が掲げられています。
船長は「金をいくら持っているか言え!」と救助ボートから言っていることから、日本人が当時かなり貧乏に見られていたことがわかります。
ビゴー「魚釣り遊び」(1887年)
この頃、朝鮮半島をめぐって当時の日本と清(現在の中国)が激しく対立していました。
この画は朝鮮半島を魚に見立てて、日本と清が1匹の魚をどちらが釣るか頑張っていますが、それを橋の上からロシアが高みの見物をして、機を伺うかのようにじっと見ています。
この画が描かれた7年後、実際にこの画がそのまま現実となります。
1894年になって朝鮮をめぐり日清戦争が始まり、そこで勝利はしたが体力の落ちた日本に対してロシアが争いをしかけ、日露戦争が1904年に発生しています。
ビゴー「言論統制」(1888年)
この画が描かれた前年に保安条例という自由民権運動を弾圧する条例が即日施行という形で制定されています。
これにより言論の自由は制限され、この画にあるように警察が右側に座っている新聞記者たちに好きなことは言わせないとばかりに口に猿轡をして一方的に話をしています。
右上の窓から見ている者が作者のビゴーだと言われていますが、その姿をみて苦笑しています。
言論の自由が統制され始めると、次は戦争がはじまるという西洋の歴史を知っているビゴーが何を思うか、この表情から読み取れます。
作者不詳「独占資本の、独占資本による、独占資本のための議会」(1889年)
19世紀後半、様々な中小資本を吸収や合併をして巨大化した大資本は「独占資本」と呼ばれ、国家の外交や内政にも影響力を持つようになっていきました。
この画は、そんな強大な力を持った独占資本が議会に対して圧力をかけている様子を描いています。
自身の所有する企業、業態に有利な法案を採用するよう圧をかけ、逆に不利になるような法案は不採用、撤廃するように呼びかけます。
まさに19世紀後半の議会は「独占資本の、独占資本による、独占資本のための会議」であったといえます。
作者不詳「セシル・ローズ」(1895年)
この風刺画は、イギリスのケープ植民地首相のセシル・ローズが行ったアフリカ横断政策(3C政策)を風刺した画です。
3C政策とは、エジプトのカイロ(Cairo)、南アフリカのケープタウン(Capetown)、インドのカルカッタ(Calcutta)を結ぶことで、インド洋の制海権と通商航海の独占的地位の向上を図る政策のことです。
そんな植民地支配に貪欲だったセシル・ローズの右足がカイロ、左足はケープタウンにかかっており、3C政策をそのまま表しています。
背中に下がるライフルや、両手に掲げる電線は、力やエネルギーによってこの地を支配するという意の現れだと言われています。
アンリ・マイヤー「中国分割」(1895年)
1894年から始まった日清戦争が日清講和条約締結という形で翌年終結しました。
しかし、中国の領有権を巡り三国干渉という形でドイツ・フランス・ロシアが介入し、またアヘン戦争によって中国に進出していたイギリスも加わり、日本を含めた5カ国で中国を切り分けることになっていきます。
この風刺画はまさにこの状況を、左からイギリス(ヴィクトリア女王)、ドイツ(ウィルヘルム2世)、ロシア(特長ある帽子)、フランス(国旗にちなんだ三色の服)、日本(サムライ)が「中国」と書かれたケーキを切り分ける風景として風刺しており、後ろでお手上げになっている清の皇帝が描かれています。
ビゴー「火中の栗」(1903年)
ロシアが栗(中国)を焼いています。
それをイギリス・アメリカが奪いたいと思っているのですが、ロシアと揉め事を起こして火傷したくはない。
そこでイギリスは日本をそそのかしてロシアの元に送り出そうとしていますが、当時の日本はイギリスやアメリカの協力を得たいと思っているのでその囁きにそそのかされて、ロシアの元に向かっている様子が描かれています。
日本人だけ小さな少年のように描かれていますが、これが当時の国力を表しているとも言われています。
トーマス・ナスト「棍棒外交」(1904年)
植民地獲得競争が激化する中、アメリカ合衆国のセオドア=ローズヴェルト大統領の「大きな棍棒を携え、穏やかに話す」という外交政策を風刺した画。
この外交政策自体はアメリカでは典型的な政策でしたが、彼が過大解釈をし、カリブ海域の「慢性的な不正と無能」に対してはアメリカが武力干渉することを正当であると表明したことにより展開されました。
これまで抑止力程度に武力をちらつかせていたアメリカでしたが、直接的な武力行使による植民地獲得が多くなっていきました。
ビゴー「日露戦争」(1904年頃)
こちらもロシアに対して日本に刀を持たせて戦わせようとしているイギリスが描かれています。
軍服なのがロシアと日本だけで、イギリスとアメリカはまるで遊びに行くような姿で高みの見物感を出しています。
ロシアの南下政策を押しとどめるためにやむなく起きた日露戦争ですが、最終的にはアメリカが仲介してポーツマス条約により終結しています。
日本が望んだ戦争ではなくもともとイギリスとアメリカにけしかけられて行った戦争でありましたが、仲介をアメリカが行い美味しいところをもっていかれ、日本は賠償金すら取れなかったことを痛烈に風刺しています。
レオナルド・レイヴン・ヒル「ヨーロッパの火薬庫」(1912年)
「ヨーロッパの火薬庫」とは、20世紀初頭から第一次世界大戦までのバルカン半島の情勢を形容した言葉です。
バルカン半島には多くの民族が混在しており、特にスラブ系とゲルマン系が激しく対立していました。
そしてスラブ系には「ロシア」、ゲルマン系には「オーストリア」と「ドイツ」が支援を行いながら、勢力拡大の機会を伺っていました。
バルカン諸民族の独立要求、帝国主義諸国の思惑、さらに勢力を拡大していたオスマン帝国の弱体化に伴い、バルカン半島はまさにいつ爆発してもおかしくはない火薬庫のような緊張状態でした。
この緊張状態は、後に第一次世界大戦のきっかけとなる「サラエヴォ事件」まで続くことになります。
和田邦坊「どうだ明るくなっただろう」(1928年頃)
これは大正時代に第一次世界大戦の戦争特需がおこり、そこで巨万の富を得た「成金」が生まれました。
お茶屋さんで芸子を従え、薄暗い玄関で靴を探す芸子のためにために、100円札に火をつけ明かりにする成金の姿が描かれています。
今のお金に換算すると、100円札は40万円ほどの大金です。
お金のありがたみを忘れ、お金を労働の対価とは思っていない様子、戦争特需によって日本人の良識が崩れていった様子を「成金栄華時代」というタイトルで風刺しています。
作者不明「独ソ不可侵条約」(1939年)
これまで敵国関係だった「ドイツ」と「ソ連」が軍事同盟を結んだことを表した風刺画。
この裏には、ドイツがポーランドを餌に「一時的に」ソ連と手を組むことによって、英仏との決着に際して東側の不安要素を払拭しておきたいという思惑がありました。この風刺画は、過激なまでに攻撃し合っていた両国が嘘のように急速に接近した様子の滑稽さと破廉恥さを演出すべく、結婚に見立てているのだと考えられます。
また、下の英文は「ハネムーン(独ソの蜜月な関係)はどれくらいで終わるのかな」と書かれており、突然の不可侵条約に驚愕したものの、その条約が長くはないことを見抜いていた人は少なくなかったようです。
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今回は歴史的に重要な出来事を描いた有名な風刺画を紹介しました。
見れば見るほど、また背景を知れば知るほど見え方が変わってくる風刺画の魅力を楽しんでいただけましたでしょうか。
現代においても風刺画は社会の矛盾を鋭く刺すアートとして、人々の心を打っていくことでしょう。
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