国宝とは?有名な国宝をジャンル別に詳しく解説
日本が誇る文化財には、国宝と位置付けられるものがあります。
美術館や博物館の展覧会などでは国宝が大きな目玉として展示されるので、一度は観たことがあるという方も多いでしょう。
国宝は寺社仏閣、仏像や絵画などの美術品から、歴史的古文書など幅広く指定されています。
たぐいない国の宝と言われる国宝とはいったい何でしょうか?
この記事では国宝になる文化財の基準、国宝の種類などをご紹介していきます。
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国宝とは
「たぐいない国の宝」
日本では1897年以来、特に優れた有形文化財を「国宝」として指定してきました。
1950年の文化財保護法施行前は国宝と重要文化財の区別はなく、国指定の有形文化財(美術工芸品、建造物)はすべて国宝と称されていました。
現在では、文化財保護法によって国が指定した有形文化財(重要文化財)の中でも、世界の文化的に価値が高いもの、たぐいない国民の宝として文部科学大臣から指定された文化財が、国宝と呼ばれています。
国宝は、文化財保護法第27条第2項によって指定されている有形文化財ということになります。
重要文化財の中から選ばれる
国宝に指定されるには、まず重要文化財として指定されなければなりません。
文化財には有形文化財・無形文化財・民俗文化財・記念物(史跡、名勝、天然記念物)・文化的景観・伝統的建造物群のカテゴリーがあり、その中の有形文化財から国によって重要文化財に指定されます。
重要文化財は日本にある美術工芸、建造物、考古資料など、先人たちが宝として守り抜いてきた文化財の中でも、歴史上・芸術上の価値の高いもの、または学術的に価値の高いものとして、文化財保護法に基づき指定されています。
指定するのは文化審議会
文化庁に設置された文化審議会。
文化審議会は著作権や文化財保護、文化功労者選定、国際文化交流やその振興について調査審議するところです。
文化審議会には国語分科会、著作権分科会、文化財分科会、文化功労者選考分科会があります。
重要文化財や国宝は、文化財分科会が文部科学大臣に対し該当の文化財を重要文化財・国宝に指定するよう答申を行い、文部科学大臣が指定することではじめて重要文化財・国宝と認められます。
指定件数は1000件を超える
国宝に指定された文化財はどれくらいあるのかご存じでしょうか?
2021年9月の時点では合計1,125点の文化財が国宝に指定されています。
美術工芸品は897件、その内訳は絵画162件、彫刻140件、工芸品254件、書跡・典籍228件、古文書62件、考古資料48件、歴史資料3件です。
建造物は228件(291棟)指定されています。
国宝や重要文化財の件数は文化庁の「文化財指定等の件数」ページから確認ができます。
国宝指定の対象・ジャンル
建造物
2021年9月時点で寺社仏閣、城郭、住宅など228件(291棟)の建造物が国宝に指定されています。
建造物の国宝に指定されるには、国宝及び重要文化財指定基準に達しており、「特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準」で定められている建造物の重要文化財である必要があります。
・意匠的に優秀なもの
・技術的に優秀なもの
・歴史的価値の高いもの
・学術的価値の高いもの
・流派的又は地方的特色において顕著なもの
が指定基準となっています。
絵画
絵画においては奈良時代から江戸時代まで広く、数多くの作品が国宝に指定されています。
絵画とまとめられていますが、壁画、仏画、大和絵、絵巻、水墨画、中世絵画、近世絵画、そして渡来してきた水墨画や南宋画なども含まれます。
「十二天像」のように複数の作品が1件の国宝に指定されている場合もあるため、国宝の絵画は点数ではなく、件数で示されています。
彫刻
6世紀に百済から日本へ仏教を伝えに渡来してきた僧侶、技術者、学者たちがいました。
その技術者たちは日本の彫刻に新風を吹き込み、地元の職人たちに新しい技術を伝えました。
国宝に指定された彫刻は仏像、神像、高僧の像など、7世紀の飛鳥時代から13世紀の鎌倉時代までの作品が多くを占めています。
その多くは木材でできており、他の素材では銅(青銅)、乾漆造、粘土などが代表的です。
「臼杵磨崖仏」のみが唯一石造彫刻となっています。
工芸品
工芸品とは、職人の熟練された高度な技術で制作された器など指します。
安価で大量生産された品物は下手物(げてもの)、美術作品として鑑賞に堪えるものは上手物(じょうてもの)と呼ばれていました。
国宝の工芸品に分類されるものは刀剣、甲冑金工、漆工、染織、陶磁などです。
国宝指定の工芸品のほぼ半数がは刀剣で占められています。
書跡・典籍
国宝に指定される書跡・典籍には、以下のようなものが含まれています。
・ジャバラ台紙に写経や古筆などを数行ずつ貼り集めた手鑑
・仏教の経典
・空海や親鸞などの高僧の撰述書・聖教類
・古今和歌集や万葉集などの歌集・漢詩
・源氏物語などの物語
・古事記や日本書紀など記録
・辞典などを含んだ和書
・禅僧の筆の漢詩や書状の墨筆
・史記などの漢籍
・世説新書などの海外写本
・宋刊本義楚などの中国刊本
古文書
日本の古文書とは歴史認識のための材料や資料である文献の一種で、特定の者に対して意志表示を行うために作成された文字史料で差出人と受取人が存在するものを指しています。
国宝には宸翰(しんかん)と呼ばれる歴代の天皇の直筆の文書、勅書(ちょくしょ)と呼ばれる天皇の命を伝える文書、弘法大師などの書状、明月記などの日記、資財帳や目録や文書、寺院関係の書状、などが含まれています。
考古資料・歴史資料
考古資料とは縄文・弥生・古墳の各時代から出土した土器や埴輪、歴史時代に入ってから塚などから発掘された遺物、墓誌などを指します。有名な国宝には「漢委奴国王印」や「銅鐸」があります。
歴史資料には沖縄の「琉球王国尚家関係資料」、仙台の「慶長遣欧使節関係資料」、千葉の「伊能忠敬関係資料」などがあります。
国宝の主な建造物
城郭
江戸時代までに建てられ、天守も保存されている天守閣がある城のことを「現存天守」と言います。
現在「現存天守」は12城あり、そのうち国宝に指定されている「国宝天守」は松本城、姫路城、犬山城、彦根城、松江城の5城です。
明治時代には廃藩置県によって多くの城が取り壊されましたが、城には建築的・美術的に価値があると保存する動きもあり、永久保存決定や修理、買い戻しなどを経て20城まで増えました。しかし第二次世界大戦の戦火により8城が失われてしまいます。
「国宝天守」は「現存天守」の中でも建築的に優れ、デザイン性や美しさ、歴史的価値があるものが指定されています。
神社
建造物として国宝に指定されている神社の建造物は41棟、神社の数は30社ほどです。
「日光東照宮」など近世や江戸時代に建立された神社もありますが、そのほとんどは中世に建立されました。
またその場所は近畿地方、特に滋賀、京都、奈良に集中しているのが特徴です。
「出雲大社」や「厳島神社」など、誰もが知るような神社も多く指定されていますが、そこまで知名度が高くない神社でも、建立から数百年以上もの間、戦災、災害の被害を受けずに現存しているという歴史的価値の高さから国宝に指定されています。
寺院
国宝に指定されている寺院は近畿地方、飛鳥時代に朝廷があった奈良県奈良に集中しており、「法隆寺」を始め「正倉院」「東大寺」などがあります。
奈良に次いで寺院の多い京都には江戸前期に建立された「清水寺」が、それ以外の都道府県では岩手の「中尊寺金色堂」、宮城の「瑞巖寺」、長崎の「崇福寺」、大分の「富貴寺」などが有名です。
主に平安末期から江戸時代以前までに建立された寺院が多く、東京には室町中期に建立された「正福寺」が指定されています。
住宅
国宝指定されている住宅には織田信長の弟・有楽の作の「如庵」、徳川家康が築城し、15代将軍慶喜が大政奉還を行った「二条城」、平安時代の寝殿造りの様式を取り入れた「醍醐寺三宝院・表書院」など15件の国宝があります。
二条城は京都府の府庁や皇室の離宮として使用され、大正天皇即位の儀式である即位礼の饗宴場として使用された場所でもあります。
その他
城郭、寺社仏閣、住居にも当てはまらない国宝指定された建造物も7件あります。
近代以前では江戸末期に外国人宣教師の下、大工棟梁が手掛けた最初期の洋風建築である長崎の「大浦天主堂」や、琉球王国時代の第二尚氏王統の歴代国王が葬られている陵墓である「玉陵」、江戸時代前期に岡山藩によって開かれた庶民のための学び舎として開校された「閑谷学校」があります。
近代では世界遺産にも認定された日本初の本格的な器械製糸の「旧富岡製糸場」、旧東宮御所であり現在では迎賓館として使用されている「迎賓館赤坂離宮」などが国宝指定されています。
国宝の主な絵画
古墳壁画
7世紀末から8世紀初頭の飛鳥時代に描かれた「キトラ古墳壁画」と「高松塚古墳壁画」はどちらも奈良にあり、大陸風の図像が描かれた古墳壁画です。
キトラ古墳の石室壁画には、青竜・朱雀・白虎・玄武の四神と、12の方角を守護する十二支、天井に天界の見取り図である天文図と、昼夜を司る太陽と月が描かれています。
高松塚古墳には日月星宿図・青竜・朱雀・白虎・玄武の四神図・人物図が描かれており、人物図の服装や四神の描き方が高句麗様式の特徴に類似しており発掘当初から高句麗古墳群と比較する研究がなされています。
密教曼荼羅
すべてのものは大日如来が姿を変えたものであり、姿形が異なるだけという考え方が密教の基本となっています。
9世紀、唐に渡った空海と最澄が日本に帰国し密教を伝えました。
密教が伝えたものに曼荼羅があります。曼荼羅とはサンスクリット語でまるいものを意味し、密教で悟りを開くため、密教を分かりやすく表現するために生まれた絵で、正方形や円で描かれたものが多くあります。
国宝に指定されている曼荼羅は8件あります。東寺には空海が日本に持ち帰った「両界曼荼羅」「胎蔵界曼荼羅」と「両界曼荼羅」「金剛界曼荼羅」が国宝に指定されています。
仏像
百済から日本に伝来した仏教がもたらした彫刻、仏像。多くの仏像は当時朝廷があった奈良や京都に集中しています。
国宝第一号となった仏像は広隆寺の「弥勒菩薩半跏像(宝冠弥勒)」で、1951年に指定されました。また広隆寺所蔵の「弥勒菩薩半跏像(宝髻弥勒)」も国宝に指定されています。
国宝に指定されている仏像の中でも大きいものは奈良の東大寺金堂の「銅造盧舎那仏坐像」が約13メートル、神奈川県鎌倉市にある高徳院の「銅造阿弥陀如来坐像」が約15メートルあります。
大和絵・絵巻
日本の絵画様式の中に大和絵があります。これは平安時代に発達した日本独自の絵画様式で、絵巻物で多く見られます。
博物館で展示が開催させると長蛇の列ができる高山寺所蔵の「鳥獣戯画」も国宝です。
『源氏物語』を絵画化した現存最古の物語絵巻「源氏物語絵巻」も国宝に指定されており、現在、徳川美術館に絵15面・詞28面、五島美術館に絵4面・詞9面所蔵されています。
他にも、餓鬼道世界を主題とした絵巻の「餓鬼草紙」、平安後期に平清盛をはじめとした平家一門が厳島神社に奉納した経典群の「平家納経一具」などがあります。
水墨画
大陸から伝来したものの中に水墨画があります。
奈良時代から墨を用いた木簡、典籍、壁画を中心に墨書や墨画が広まり、鎌倉時代には水墨画が禅ととも伝わり、画僧によって発展しました。
水墨画で有名な雪舟の作品には国宝に指定されたものが「山水図」「秋冬山水図」「慧可断臂図」「天橋立図」「淡彩山水図」「四季山水図」と6点もあります。
「慧可断臂図」は禅宗の初祖・達磨の面壁座禅中に、僧である慧可が弟子入りを訴えるために自ら左腕を切り落として決意を示した有名な場面が描かれています。
近代絵画
安土桃山時代には金箔、銀箔を大量に使った豪奢で雄大な絵画が増えていきました。
織田信長、豊臣秀吉などの戦国大名からの保護を受けた絵師の中で日本絵画史上最大の画派だった狩野派は、江戸時代に入ってからも徳川将軍家の保護を受け活躍します。
国宝には狩野正信の「周茂叔愛蓮図」、狩野永徳の「檜図」「洛中洛外図」、狩野長信の「花下遊楽図」があります。
また当時狩野永徳と並び評価されていた長谷川等伯の「松林図」、そしてヨーロッパの印象派にも影響を与えた琳派の祖、俵屋宗達の「風神雷神図」や尾形光琳の「燕子花図」があります。
その他
禅僧の肖像画を「頂相」と呼び、主に弟子の僧侶に自賛の肖像画を与えるという習慣がありました。
鎌倉の建長寺にある「蘭渓道隆像の頂相」は国宝に指定されています。
その他の国宝に指定されている肖像画では神護寺三像と呼ばれる「伝源頼朝像」「伝平重盛像」「伝藤原光能像」があります。
また大陸からもたらされた渡来画には、北宋の第8代皇帝の徽宗筆と言われている「桃鳩図」、中国・元時代の画僧、因陀羅の「寒山拾得図」、足利将軍のコレクションだった「秋野放牧図」などが国宝に指定されています。
国宝の主な彫刻
運慶作の仏像
奈良仏師、慶派の仏師である運慶は平安末期から鎌倉時代初期に活躍しました。
運慶は平家の兵火により、奈良の東大寺・興福寺が焼亡した際、奈良仏師として再興事業に参加し東大寺金剛力士像を制作します。
その後、鎌倉幕府へ接近し、鎌倉様式と呼ばれる彫刻様式を完成させました。
運慶作で国宝に指定された作品は数多く、静岡の願成就院は「阿彌陀如来坐像」「不動明王・矜羯羅童子・制吒迦童子三尊立像」「毘沙門天立像」の5躯を安置しています。
木造阿弥陀如来坐像
京都にある平等院は平安後期に建立された寺院です。
当時、釈尊の入滅から2000年目以降は仏法が廃れるという末法思想が信じられており、関白であった藤原頼通によって建立されました。
平等院には鳳凰堂があり、その中に設置されている「阿弥陀如来坐像」とともに国宝に指定されています。
仏師定朝作の阿弥陀如来坐像は日本独自の寄木造り技法で制作され、定朝様として後世の模範ともなりました。
木造如意輪観音坐像
大阪にある観心寺は北斗七星を祀る日本で唯一のお寺です。
空海が当時雲心寺と称していた観心寺を訪れ北斗七星を勧請し、これにちなむ7つの「星塚」が現在も境内に残っています。
観心寺に本尊として安置されている国宝の「木造如意輪観音坐像」は、空海が刻んだという伝承が残されていますが、あくまで伝承の域を出ていません。
六臂の密教彫像で、秘仏で、毎年4月17・18日の2日間のみ開扉されています。
木造金剛力士立像 2躯
奈良の興福寺は国宝指定の仏像17件所有しており、これは法隆寺と並んで国内最高保有率となっています。
興福寺・南大門の左右には「木造金剛力士立像」が待ち構えています、向かって右側が阿形、左が吽形です。
鎌倉彫刻の特徴が発揮されたこの2躯の金剛力士立像は仏師定慶作と伝えられていますが、当時定慶と名乗る仏師が3人いたことが分かっており、運慶の次男,もしくは康慶の弟子と伝える大仏師法師定慶ではないかと言われています。
木造観音菩薩立像(九面観音)
法隆寺は7世紀に奈良の斑鳩町で建立された聖徳太子ゆかりの寺院です。
古代寺院の姿を現在に伝える仏教施設で、境内は金堂、五重塔を中心とする西院伽藍と、夢殿を中心とした東院伽藍に分けられています。
「木造観音菩薩立像」は法隆寺の寺宝で、唐から伝来しました。
一本の香木から一木造で制作されており、彩色を施さず白木で仕上げた、檀像と呼ばれる像です。頭上には慈悲、憤怒、笑いなど合計8つの面を乗せています。
国宝の主な工芸品
曜変天目茶碗
「天目茶碗」とは南宋時代に茶葉の生産地だった中国の天目山一帯の寺院で用いられた天目山産の茶道具で、天目釉と呼ばれる鉄釉をかけて焼かれた陶器製の茶碗のことを指します。
その中でも「曜変」は最上のものとされ、内側に星のようにもみえる大小の斑文が散らばり角度によって玉虫色に光彩が輝き移動し、宇宙の星のように輝きを放っています。
「曜変天目茶碗」は藤田美術館、静嘉堂文庫、龍光院が所蔵しており、3点すべてが国宝に指定されています。
秋草文壺
「秋草文壺」は昭和17年4月、神奈川県川崎市南加瀬の白山古墳の後円部下方から出土しました。
高さ40センチでオリーブ色の釉薬がかかっており、さらに頚と胴にススキやウリ、柳などの植物と、トンボや規矩文がヘラで刻まれているため秋草文壺と名が付けられました。
発掘されたとき秋草文壺には火葬された人骨が入っており、骨壺として使用されていたと考えられています。
秋草文壺は慶應義塾大学が所有していますが、現在は東京国立博物館に寄託されています。
梵鐘(観世音寺)
観世音寺の梵鐘は7世紀末のもので現存する最古の梵鐘です。
京都・妙心寺の梵鐘には「戊戌年」(698年)「糟屋評」(現在の福岡県粕屋郡)銘が打たれており、観世音寺の梵鐘と兄弟鐘と考えられています。
菅原道真は大宰府に流されたとき、家から出ることは叶わず、漢詩「不出門」のなかで「都府楼はわずかに瓦の色をみ、観音寺はただ鐘声を聴くのみ」と観世音寺の梵鐘について詠んでいます。
金銅鳳凰 一対(平等院鳳凰堂)
国宝に指定されている平等院鳳凰堂の屋根の上に一対の金銅鳳凰がいます。
1965年に修復と保存のために取り外され、現在の鳳凰堂の屋根の上にいる金銅鳳凰は複製になります。
鳳凰堂とともに1951年に国宝に指定されましたが、2004年に金銅鳳凰単独で国宝に指定されました。
また2004年から使用されている1万円紙幣の裏面には金銅鳳凰が印刷されています。
玉虫厨子
奈良の法隆寺が所蔵している仏教工芸品の玉虫厨子。
玉虫厨子が制作されたのは飛鳥時代で、厨子とは仏像,仏画,舎利,経典などを安置する屋根付きの入れ物のことです。玉虫厨子は仏堂をそのまま台座に乗せたような形で制作されています。
装飾に玉虫の羽を使用していることから玉虫厨子と名前が付いています。
玉虫厨子の特徴は釈迦の前世の物語である「捨身飼虎図」が描かれており、この図は「異時同図法」の典型的な例としても知られています。
三日月宗近
天下五剣の一振に数えられる名刀、三日月宗近。
三日月宗近は平安時代の制作と伝えられており、平安時代の刀工・三条宗近の作と伝えられています。
この時期は直刀から刀身に鎬と反りのある形式の日本刀へ変化する時期の最古の作品で、足利家、豊臣家、徳川家と天下人に愛された名刀です。
国宝の主な書跡・典籍
賢愚経
「賢愚経」(けんぐきょう)は、賢愚因縁経(けんぐいんねんきょう)とも言い、中国北魏の慧覚らの漢訳した仏の本生、賢者、愚者に関する譬喩的な小話69編が集まったお経です。
国宝に指定されている賢愚経は聖武天皇筆と伝わっている写経本で、1行11字から14字で書写し、端正で大振り、堂々たる筆致から大聖武と呼ばれています。
法華経
大乗仏教の代表的な経典、「法華経」(ほけきょう、ほっけきょう)。
法華経は大乗仏教の初期に成立した経典であり、誰もが平等に成仏できるという仏教思想が説かれています。
仏教とともに飛鳥時代に日本へ伝来しました。
国宝に指定された法華経は9世紀の平安初期に写経され、全部で八巻あります。
仮名には万葉仮名が多く用いられており、訓点資料として国語学史上にも貴重な遺品です。
万葉集
奈良時代、7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された、現存するわが国最古の歌集である「万葉集」。
全20巻からなり、約4500首の歌が収められています。
万葉集には天皇や貴族から、農民、防人まで幅広い歌が採用されており、編纂には大伴家持が関わったとされています。
他にも五大万葉集の一つである「元暦校本万葉集」「藍紙本」「金沢本」が国宝に指定されています。
古今和歌集(元永本)
平安時代中期の勅撰和歌集「古今和歌集」は全20巻あります。
選者は紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑の4人で、醍醐天皇の勅命により万葉集に選ばれなかった古い歌から当時の歌まで編纂されています。
国宝指定された古今和歌集は平安時代に書写された30種類の中でも、仮名序と20巻すべてが完全にそろった最古の写本です。
土佐日記
「土佐日記」は平安時代の日記文学の一つ、紀貫之が土佐国から京に帰る55日間の最中に起きた出来事を綴ったものです。
書き手を女性に仮託した紀行文、日本最古の日記文学で、後の「蜻蛉日記」「和泉式部日記」「紫式部日記」「更級日記」などの平安の女流文学にも影響を与えたと言われています。
国宝に指定されている土佐日記は藤原定家筆で鎌倉時代に書写されたものです。
国宝の主な古文書
島津家文書
鎌倉幕府の御家人の武将に島津忠久がいます。島津忠久は島津家の初代藩主で、鎌倉時代から江戸時代まで薩摩を領していました。
「島津家文書」とは、平安時代末期から明治時代初期の700年間、島津家に代々伝わってきた、政治、外交、社会経済、家督相続など多岐にわたる総数15,133通の大規模な武家文書群です。
何度も焼失の危機がありながらも、戦火を免れた貴重な歴史資料です。
上杉家文書
「上杉家文書」は、鎌倉時代から江戸時代まで旧米沢藩主・上杉家に伝えられた2018通、4帖、26冊の古文書群です。
南北朝・室町時代の文書が中心になっており「山内上杉家文書」「越後国守護上杉家文書」「府内長尾家文書」「古志長尾家文書」および謙信、景勝、定勝以降の上杉氏文書に大きく分けられます。
上杉家文書は2001年に武家文書として初めて国宝に指定されました。
明月記
鎌倉時代初期の歌人藤原定家が日々の記録をつづった「明月記」。別名「照光記」「定家卿記」とも呼ばれています。
58巻からなる明月記は漢文で記されており、歴史書・科学的記録としても価値があります。
本書は特に天文学分野で注目されており、定家自身が遭遇したものや過去の観測記録など、さまざまな天体現象についての記録が克明に残されています。
国宝の主な考古資料・歴史資料
金印 漢倭奴国王印
江戸時代、博多湾に浮かぶ志賀島で水田の耕作中に甚兵衛という地元の百姓が偶然発見した純金製の金印。
金印に刻まれた「漢委奴国王」の五つ文字から、当時の漢の皇帝が委奴国王に与えた印であることが分かりました。
出土後は福岡藩主黒田家に代々伝わり、明治維新後に黒田家が東京へ移った際、東京国立博物館に寄託され学術調査が進みました。
石幢
「石幢」(せきどう)とは石造建築物の一つで、六角柱または八角柱の石柱と仏龕(ぶつがん)・笠・宝珠などから成り立っています。
日本で国宝に唯一指定されている石幢は、東京都立川市の普済寺境内にあるコンクリート製の覆堂内に保存されています。
板石6枚を組み合わせた六面石幢で、四天王(持国天、増長天。広目天、多聞天)及び金剛力士(仁王)像が薄肉彫りされています。
慶長遣欧使節関係資料
慶長遣欧使節とは、1613年に当時の仙台藩主伊達政宗がフランシスコ会宣教師ルイス・ソテロを正使、支倉常長を副使として、スペイン国王・フェリペ3世、およびローマ教皇・パウロ5世のもとに派遣した使節のことです。
慶長遣欧使節は初めて太平洋・大西洋の横断に成功した日本人であり、日本人が初めてヨーロッパの国へ赴いて外交交渉をした出来事でした。
伊達政宗がローマ教皇へ宛てた親書や、ローマ法王の肖像画、常長の肖像画、常長のローマ市民権証、常長がスペイン・ローマ・フィリピンから持ち帰った品々をまとめて慶長遣欧使節関係資料とし、国宝に指定されました。
まとめ
国宝はその美しさはもちろん、歴史的・学術的価値、技術などを総合して指定されます。
今回ご紹介した国宝はどれも貴重なたぐいない国の宝です。
美術館や博物館の展示以外にも寺社仏閣や天守閣、寺院に安置されている仏像など、気軽に国宝を鑑賞できる機会もあります。
先人たちが守り通し、私たちに当時の様子を伝えてくれる国宝をぜひ見てみてください。
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