「象徴主義」とは?有名な画家と代表作品について分かりやすく解説
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「象徴主義」とは?
象徴主義とは、19世紀後半にフランスとベルギーで起こり、ヨーロッパ全土とロシアに波及した芸術運動です。この運動は文学から始まり、音楽、そして美術と広範に及びました。
「象徴主義」という言葉は、フランスで活動した詩人ジャン・モレアスが、1886年に発表した「象徴主義宣言」に由来しています。
19世紀後半は、科学技術の飛躍的な進歩により、ヨーロッパの人々の生活が大きく変化した時代。物質主義や享楽的な都市生活がもてはやされる風潮に反発し、人間の内面に目を向けたのが象徴主義の芸術家たちでした。
同時代のムーブメントとして印象派がありますが、印象派の芸術家たちは目に見えるものを忠実に画面に写し取ろうとしたのに対し、象徴主義の芸術家たちは目に見えないものを描き出そうとしました。
象徴主義が起こる前には、イギリスにラファエル前派が現れました。その芸術的態度や思想から、彼らは美術における象徴主義の先駆けといえる存在であるとされます。
象徴主義美術は、人間の苦悩や不安、運命、精神性や夢想などの形のないものを、神話や文学のモチーフを用いて象徴的に描いていることに特徴があります。
目に見えないものを追い求めるその姿勢は、のちのアール・ヌーヴォーやナビ派、ウィーン分離派などの世紀末技術に影響を与えました。
活躍したアーティスト
オディロン・ルドン
ギュスターヴ・モロー
グスタフ・クリムト
ジョン・エヴァレット・ミレー
オディロン・ルドン
1840年4月22日-1916年7月6日(享年76歳)
オディロン・ルドンは、19世紀後期から20世紀初期にかけて活動したフランス人の画家です。
ルドンは「内なる世界」に向き合い、目に見えない精神世界をモノクロに描きだす「孤高の画家」として知られています。
彼の初期の作品は長い間モノクロの石版画が中心でしたが、次男の誕生をきっかけに鮮やかな色を取り入れるようになり「愛」を感じる神や宗教に関わる作品の制作も手がけるようになりました。
ギュスターヴ・モロー
1826年4月6日-1898年4月18日(享年72歳)
ギュスターヴ・モローは、フランス象徴主義における先駆的画家です。
妖艶で儚く繊細な架空世界を描いている作品が多く、幻想的な雰囲気がとても印象的です。
印象派の画家とは違い、真逆のギリシャ・ローマ神話や聖書を主題にして、幻想的な空想の世界を創り出していました。
「私は見えないもの、感じるものだけを信じる」という有名な言葉を残しています。
グスタフ・クリムト
1862年7月14日-1918年2月6日(享年55歳)
グスタフ・クリムトはオーストリアを代表する画家です。
また、ウィーン分離派の創設者であり、代表的なメンバーでもあります。
クリムトは女性の身体で、甘美で妖艶なエロスを表現する作品が多く、「黄金の時代」と呼ばれる金箔が多用された作品を生み出した成功者としても知られています。
彼の作品は日本や東アジアの文化を大きく受けていると言われ、日本画と日本画の手法を使った作品が多く残されています。
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ジョン・エヴァレット・ミレー
1829年6月8日-1896年8月13日(享年67歳)
ジョン・エヴァレット・ミレーは19世紀のイギリスのラファエル前派の画家です。
ジョンは幼い時から才能が開花しており、11歳で史上最年少の画家としてロイヤル・アカデミースクールに入学。イギリス出身の画家として初めて世襲貴族に叙し、のちにロイヤル・アカデミーの会長に就任たことで有名です。
彼は細部までこだわり抜かれた、並外れた構成と明晰さを持つ絵画を描く画家として知られ、イギリスの有名人の肖像画を多く残しています。
彼の代表作「オフィーリア」は夏目漱石といった日本の文化人にも影響を与えており、今なお世界で注目されている傑作の一つとして知られています。
象徴主義の傑作4選
1.キュクロプス
作者 オディロン・ルドン
制作年 1914年頃、あるいは1898-1900年頃
所蔵 クレラー・ミュラー美術館
解説
オディロン・ルドン(1840-1916年)はフランス・ボルドーに生まれ、主にパリで活躍した画家で、無意識の世界に踏み込んだような幻想性溢れる作品を多く生み出しました。
この作品は、一つ目の巨人族キュクロプスであるポリュペーモスが、海の妖精ガラテイアに叶わぬ恋をするというギリシア神話をモチーフにしています。
恐ろしい人食い巨人であるはずのキュクロプスですが、ルドンが描くポリュペーモスは穏やかで、人の好さすら感じさせます。愛するガラテイアをそっと見つめる姿には、どこかもの悲しさが漂っています。
花々に囲まれて眠るガラテイアの無邪気さと、切ない片想いに身を焦がすポリュペーモスの哀しみとの対比が際立つようです。
2.ガラテイア
作者 ギュスターヴ・モロー
制作年 1880年
所蔵 オルセー美術館
解説
ギュスターヴ・モロー(1826-1898年)はフランス象徴主義を代表する画家です。
神話や聖書の題材を独自に解釈し、個性的な色彩と繊細な筆致で幻想的に描き出しました。
この作品も、上記のルドンの作品と同様にポリュペーモスのガラテイアへの恋を描いたものです。
この作品では、一つ目の巨人ポリュペーモスが三つ目として描かれており、額の目でガラテイアを静かに見つめています。
その思いつめた表情から、叶わぬ恋の苦悩が伝わってくるようです。
ガラテイアは洞窟の中でしどけなく座り、髪をかき上げています。
周囲に描かれた海藻や珊瑚などは学術的資料の丹念な模写によるもので、ガラテイアの神秘的な美しさを引き立てています。
3.接吻
作者 グスタフ・クリムト
制作年 1907-1908年
所蔵 ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館
解説
グスタフ・クリムト(1862-1918年)は、世紀末ウィーンを代表する画家です。
官能的なテーマを独特の甘美さと妖艶さで描いた作品が多く残されています。
この作品は、クリムトの「黄金の時代」と呼ばれる時期に描かれました。
この時期の作品には金箔が多用されており、日本の琳派や浮世絵の影響が見られます。
モデルはクリムト本人と恋人エミーリエとされています。
1908年に開催されたウィーンの総合芸術展「クンストシャウ」で絶賛され、展覧会終了後すぐにオーストリア政府に買い上げられたという逸話を持つ代表作です。
まばゆい黄金の空間の中で、今まさに男女が口づけしようとしています。恍惚とした女性の表情が官能的で、愛の絶頂を感じさせるシーンです。
二人の足元は花々で覆われていますが、女性の足元から切り立った崖のようになっています。
そして、男性のまとう衣は四角の柄、女性の衣は円形の柄が描かれています。
これは、どんなに愛し合おうとも相容れることなない、男女の間の深い溝を表しているともいわれています。
幸福の最高潮の瞬間を描きながらも、死や不安という、クリムトの作品に共通したテーマがこの作品にも垣間見えます。
4.オフィーリア
作者 ジョン・エヴァレット・ミレー
制作年 1851-1852年
所蔵 テート・ブリテン
解説
ジョン・エヴェレット・ミレー(1829-1896年)は、ラファエル前派を代表するイギリスの画家です。
歴史的・文化的な主題を、確かな技術に基づく写実的描写と明るい色調で描きました。
この作品は、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」から題材をとっています。
登場人物のオフィーリアが狂気に陥り、歌を口ずさみながらデンマークの川で溺れてしまう場面です。
小川に浮かぶオフィーリアは、まだ歌を歌っているのか、それとももう死んでしまっているのか…目を見開いた彼女の顔は、生死を超えた神々しい美しさをたたえています。
小川はデンマークという設定ですが、描かれているのは典型的なイングランドの風景です。
実際に、ミレーはサリー州イーウェル市のホグズミル川の岸辺に長く滞在し、この風景を描きました。
丹念に描かれた植物や小川の美しさは、5か月間という長い期間にわたる観察と描写の賜物といえるでしょう。
「象徴主義」のおすすめ関連書籍3選
『もっと知りたいクリムト 生涯と作品(アート・ビギナーズ・コレクション)』
クリムトは静謐な雰囲気を持つ風景画も多く残しており、ストックレー邸の壁画など、工芸的な装飾美の面からも、特筆すべき作品が存在しています。本書では、クリムトの生涯を時系列に沿って追いながら、さまざまな顔を持つクリムトの芸術を余すところなく紹介しています。
「金色の中の女性像」だけでない、クリムトの魅力も知ることのできる1冊です。
● 読者の感想
“クリムトの生涯と作品を廉価でオールカラーで提供”
世紀末のウィーンを代表する耽美的で装飾的な画風を残したクリムトですから、眺めているだけで回顧展にいったような趣を受けます。デビューから晩年までの作品を年代順に眺めますと、時代の潮流を受けて作風が変化しているのが分かります。より個性的に装飾的になっていく様を簡単に理解できます。
“全ページカラー”
79ページの本ですが、前頁カラーで紙も良いため印刷も美しくて絵の見応えがあります。クリムトの年齢にそって作品が並べられていて、当時作者がどんな状況にいて、時代も解説されています。絵を楽しんでとても満足できる充実した本。お買い得感があります。
『オディロン・ルドン―自作を語る画文集 夢のなかで』
シュルレアリスムを先取りするような、幻想的な世界や架空の生き物たちを描いたルドン。
独自の色彩感覚で描かれた絵画のほかに、独創的な石版画も多く残しています。
本書は、ルドン自身の手記や手紙から自作や芸術観について書かれた文章を選び、作品とともに構成したもの。
ルドン作品を読み解く一助となる1冊です。
● 読者の感想
“誠実な画家の紡ぎだす謎めいた夢世界”
本書は初期に多かった白黒のリトグラフと、中〜晩年の鮮やかな色味の油彩画の比率が半々くらい収録されていて、ルドンを概観するのに適していると思います。何より、作品と専門家による解説から成る<画集>ではなく画家本人の言葉とともに作品を鑑賞できる<画文集>であるのが魅力です。巻末にはルドン作品を所蔵する国内の美術館のリストも載っていて親切です。“名文満載の知的レベルの高い画文集”
創作の能力は無いよりはあった方がいいが、無い人物でも高貴な優れた人物がいると認識しているルドンは一流だな。他にも名セリフ名画満載の素晴しい画文集である。落ちのある構成にもニヤリとさせられる知的レベルの高い本である。
『ラファエル前派:ヴィクトリア時代の幻視者たち』
19世紀半ばのイギリスに登場したラファエル前派は、ルネッサンスの芸術家ラファエロ以前の絵画に理想を見出し、それへの回帰を主張しました。象徴派の先駆けとして、同時代のヨーロッパ美術に大きな影響を与えた存在です。
ロセッティやミレーなど、ラファエル前派のメンバーは極めて個性的で、奇行やアルコール中毒、女性モデルをめぐる不倫関係など、私生活におけるエピソードにも事欠きませんでした。
そうした彼らの素顔とともに、華やかさと苦悩とが共存するラファエル前派芸術の全貌をつかむことができる1冊です。
● 読者の感想
“わくわくします”
美しい乙女が川面に浮かぶこの表紙が大好きです。わかりやすい文章に、美しい図録、言うことなし!入門書としても最適ですが、値段の割にはゴージャスな感じがします。日本では余り人気がないようにも思いますが、この表紙絵を見ながら、また、読みながらシューベルトの「死と乙女」を聴くのがいいのよね〜
“小型本で読みやすい”
ラファエル前派といえば「絶世の美女」で有名だが、この画家たちの作品には、女性でも思わずポーっとしてしまうような美女で溢れている。この本にはラファエル前派の成り立ちにはじまり、ミレイ、ロセッティ、ハント、モリス、バーン=ジョーンズなどの画家について書かれており、「ラファエル前派ってなに?」と興味を持った方は楽しく読めると思う。
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