ジャポニスムとは?日本趣味が流行した理由、影響を受けた画家・作品を詳しく解説
19世紀中頃から西洋で流行した日本趣味を指す「ジャポニスム」。
日本の開国後、海外へ渡りはじめた日本の工芸品や浮世絵は、その物珍しさから西洋の人々を魅了し、貴族を中心に多くの人々が買い集めました。
日本の浮世絵に衝撃を受けたゴッホは、浮世絵を熱心に収集し、多くの模写作品を残しています。
ゴッホの他にも「琳派」の屏風絵から着想を得て、金箔を施した装飾的な作品を描いたクリムトなど、日本美術は西洋の多くの画家、芸術家たちに影響を与え、ジャポニズムは単なる流行に止まらないインパクトを西洋文化に残すことになります。
今回は「ジャポニスム」の流行がどのようなものだったのか、その歴史とジャポニスムに影響を受けた芸術家と代表作品について詳しく解説します。
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ジャポニスム とは?
「ジャポニスム」とは、19世紀に西洋で広がった「日本趣味」の流行と、浮世絵をはじめとする日本美術の技法やアイディアを西洋芸術に取り入れた芸術家たちの運動を指す言葉です。
1854年、それまで鎖国状態だった日本が日米和親条約の締結とともに開国し、幕府が外国との貿易や人の往来を許したことにより、日本の陶磁器や工芸品、浮世絵などが海外へ輸出されるようになりました。
最初に日本美術文化への注目が集まったのは、芸術の中心地と言われたフランスのパリです。
日本の陶磁器や漆器、着物など、それまで見たことのない日本の工芸品に西洋の人々は魅了されました。
特に「浮世絵」の西洋美術とは全く異なる表現技法は、モネやゴッホなど当時パリで活動していた多くの芸術家たちに影響を与え、ジャポニスムは美術工芸品に留まらず、ファッションや音楽、建築など他分野へと波及していきます。
ジャポニズムの歴史
19世紀パリでジャポネズリーが流行
ジャポニスムの流行はフランスのパリから始まりました。
西洋では17世紀から中国美術を模した「シノワズリー」が流行しており、ジャポニズムもそれに並んと「ジャポネズリー」として浸透していきます。
ジャポネズリーは単なる「日本的な趣向」を意味するもので、その当時の絵画にも既に日本の美術工芸品が登場していますが、あくまでもモチーフの一つとして描いただけの表面的なものでした。
ロンドン万国博覧会で日本美術が注目される
1862年に開かれた第2回ロンドン万国博覧会では、当時の駐日英国公使が収集した日本の漆器や刀剣などの工芸品や、蓑笠、提灯、草履といった日用品が展示されました。
万博を訪れた日本使節団の淵辺徳蔵は、展示された日本からの出品物を、
“全く骨董品の如く雑具”
と書き残している一方、ヨーロッパの人々からは好評を博したそうで、日本美術への関心が高まる一つのきっかけとなりました。
ウィーン万博をきっかけに、本格的な日本ブームが到来
19世紀末にはヨーロッパで更なる日本ブームが訪れます。
1873年、明治政府が初めて公式に参加したウィーン万国博覧会では、「新しい日本を全世界にアピールする」という使命のもと、日本の美術工芸品から生活用品まで、あらゆる物を展示。中には正倉院の宝物など、国宝級のものも含まれていました。
また大型出品物として、1,300坪ほどの敷地に神社と日本庭園を造成し、白木の鳥居や神殿、神楽堂や反り橋を設置。
この日本庭園は好評を博し、イギリスのアレキサンドル・パーク商社が建物だけでなく石や木など全てを買い上げ、1885年にイギリスへ移設。日本の物品を展示・販売する「日本村」が作られました。
同年にはウィリアム・S・ギルバートによる脚本、アーサー・サリヴァン作曲のオペレッタ『ミカド』も上映され、ロングランの大ヒットとなります。
日本風デザインのドレスも流行し、イギリスの人気百貨店「リバティ」では日本的趣向の家具や布地が販売されました。
後世への影響
20世紀に入りしばらくすると、ジャポニスムの流行も次第に停滞していきます。
しかしジャポニスムが西洋の芸術文化に与えた影響は、美術、ファッション、工芸、家具、建築などあらゆる分野で脈々と受け継がれています。
ジャポニスムの影響を受けた、モネやゴッホをはじめとする印象派の画家たち、ボナールをはじめとするナビ派の画家たちが生み出した新しい絵画表現は、やがてキュビズムやモダンアートへと引き継がれていきます。
ココ・シャネルなど現在も続く大手メゾンも、着物にヒントを得て新しいスタイルを確立していきました。
ジャポニズムの影響を受けた分野
美術
ジャポニスムの影響を受けた分野として最も有名なのは美術でしょう。
芸術アカデミーを頂点とした当時の西洋美術界では、遠近法や陰影を用い、写真のようにリアルに描くことが良しとされていました。
一方、日本の浮世絵はその真逆で、平面的に対象物の輪郭をはっきり描きます。
色使いも現実より鮮やかで、大胆な構図と余白美による自由な絵画空間を構成していました。
目に見えたままそっくりに描く、ということから逸脱しているにも関わらず、写実性に優れ、平面的でありながらリアリティを感じさせる浮世絵の表現に、当時の画家たちは大きな衝撃を受けました。
ジャポニスムに影響を受けた代表的な画家として、ゴッホやモネ、マネ、ドガ、ロートレック、クリムトなどが挙げられます。
彼らは熱心に浮世絵の表現技法を学び取り、積極的に自身の作品に取り入れ、新しい絵画表現を生み出していきました。
工芸
陶器やガラス、装飾品といった工芸分野も、同時代にヨーロッパで流行していた、新しい芸術を意味する「アール・ヌーヴォー」運動とも相まって、ジャポニスムの影響を受けています。
エミール・ガレをはじめとする、アール・ヌーヴォーの芸術家たちの作品の特徴の一つでもある、動物や昆虫、植物など自然界のモチーフを取り入れた曲線的なデザインは、日本美術の花鳥を用いたデザインに通じるものがあります。
ファッション
ファッションの分野でも、ジャポニスムの影響をみることができます。
シンプルで緩やかなフォルムを持つ着物は、その当時、コルセットできつく縛られていた西洋の衣装とは大きく異なるものでした。
ヨーロッパで起きた「キモノブーム」は、西洋人にとって服の感覚を変える転換点となり、ファッションデザイナーのポール・ポワレ(1879-1944)が1906年に発表したコルセットなしのドレスや着物風ガウン。ココ・シャネル(1883-1971)の菊文様をあしらったコートなど、着物に着想を得た新しいファッションが生まれ、新たなモードの潮流へと繋がっていきました。
家具
家具の分野において、ジャポニスムの影響は「単純さ」や「装飾の排除」という形で現れました。
エドワード・ゴッドウィン(1833-1886)が制作した木製のサイドテーブルなどがその代表例として挙げられます。
彼の無駄な装飾を取り除いた、細く直線的な家具はシンプルながらも優雅で、日本の「侘び・寂び」の美意識と「間を意識する感覚」が取り入れられています。
音楽
音楽の分野では、特にオペラでジャポニスムの影響が顕著にみられます。
1874年に上演された「黄色い王女」を皮切りに、「ミカド」(1885)、「お菊さん」(1893)、「イリス」(1898)、そしてかの有名なプッチーニの「蝶々夫人」(1904)など、日本を主題とした作品が次々と発表されました。
これらのオペラ作品には日本の伝統音楽に使われる音階や、流行歌の旋律が使われています。
ジャポニズムの影響を受けた画家
ゴッホ(1853-1890)
ポスト印象派の画家、フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ(1853-1890)は、ジャポニスムに最も影響を受けた画家の一人です。
ゴッホはオランダにいた当時から浮世絵に関心を示し、数枚の浮世絵を持っていたと言われています。
パリに来て本格的な浮世絵と出会い、大きな衝撃を受けたゴッホは、パリで画商をしていた弟のテオと共に500枚もの浮世絵を収集。
中でも歌川広重の作品に強い関心を持ち、「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」や「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」など、浮世絵をいくつも模写しています。
日本への強い憧れを抱いていたゴッホは南仏のアルルを訪れ、その土地の景色に浮世絵との共有点を見出し、ゴーギャンと共にアルルへ移住。「種まく人」や「ひまわり」「夜のカフェテラス」「跳ね橋」といった代表作の多くがアルル時代に制作されました。
ロートレック(1864-1901)
トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)はフランスの画家で、数多くのリトグラフ(石版画)ポスターを制作したことで知られています。
彼は単に日本的なモチーフを自身の作品の中に描くことには批判的で、浮世絵の表現手法を分析し、積極的に自分の作品に応用しました。
ロートレックの作品にはベタ塗りによる対比効果や大胆な画面構成、デフォルメされた人物のジェスチャーや表情など、浮世絵と同様の特徴がみてとれます。
クロード・モネ(1840-1926)
印象派を代表するフランスの画家クロード・モネ(1840-1926)も、ゴッホと並び大の日本好きとして知られており、晩年には「16歳だった1856年頃にはじめて浮世絵を見て深く感動した」と知人に語っています。
フランスのジヴェルニーにあるモネの自宅兼アトリエ、通称「モネの家」には、喜多川歌麿の版画46点、葛飾北斎の版画23点、歌川広重の版画48点、合計117点が保存されており、壁中に浮世絵が飾られています。
モネは1893年に道路を隔てた隣の土地を購入し、睡蓮が咲く池を中心に、日本の太鼓橋やしだれ柳を配し、日本庭園を意識した「水の庭」を造成。晩年の20年間はひたすら「睡蓮」を描き続けました。
庭造りが趣味だったモネは睡蓮の配置にもこだわり、蓮を一株づつ鉢に入れて池に沈めたと言います。
睡蓮以外にも、日本美術の空間表現、色使いを取り入れた作品を数多く残しています。
ルノワール(1841-1919)
ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)は画家になる以前、陶磁器の絵付けや扇の装飾を行う職人として働いていましたが、産業革命や機械化の影響により職人としての職を失い、画家に転向しました。
日本趣味が貴族の間で流行し始めると、ルノワールの後援者であるシャルパンティエ夫人も日本の物を熱狂的に買い集め、夫人が自邸で催すサロンに出入りしていたルノワールは、あまりにも日本の物が溢れかえっている様子に辟易し、日本嫌いになるほどだった、というエピソードがあります。
ルノワールはこうした当時の需要を汲み取り、日本の美術工芸品をモチーフとして絵の中に取り入れた作品を多く残しています。
ピエール・ボナール(1867-1947)
ピエール・ボナール(1867-1947)は、19世紀末のパリで活動した芸術家集団「ナビ派」を代表する画家の一人です。
1890年、ボナールはエコール・デ・ボザールで開催された日本美術展を見て感銘を受け、それ以降「ナビ・ジャポナール(=日本かぶれのナビ)」と呼ばれるほどジャポニスムに深く傾倒しました。
屏風絵のような四曲一隻のパネルに描いた作品や、浮世絵を意識した版画、ポスターなどを制作し、日本美術の表現手法を取り入れながら独自の絵画表現を模索しました。
グフタス・クリムト(1862-1918)
19世紀末から20世紀後半にかけて活躍したウィーン最大の画家、グフタス・クリムト(1862-1918)は、14歳のころから博物館付属工芸学校で画家として順調なキャリアを歩んでいましたが、父と弟の死をきっかけに、自身が本当にやりたいことを見つめ直し、伝統芸術から分離して新たな造形表現を目指すグループ、「分離派」を結成しました。
クリムトの「黄金時代」と呼ばれる時期に制作された絵画には金箔が多用されており、中でも「接吻(1908-1909)」はクリムトの代表作品として知られています。
平面的な空間表現、金箔と装飾的な模様を多用した表現は、日本の琳派の影響が大きいと言われています。
エミール・ガレ(1846-1904)
アール・ヌーヴォーを代表するフランスのガラス工芸家、エミール・ガレ(1846-1904)。
1885年以降、ガレは日本の農商務省官僚・高島得三と交流をもち、日本の文物や植物についての知識を得たと言われています。
ガレが暮らすナンシーに留学生として滞在していた高橋とガレは交流を深め、水墨画を得意とする高島はナンシーで400点もの水墨画を描き、ガレにも2点の絵を贈っています。
1889年にパリで開催された万博で発表された、水墨画的なぼかし表現が入った「悲しみの花瓶」シリーズは、水墨画から着想を得て制作されたと言われています。
ポール・ゴーギャン(1848-1903)
ポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャン(1848-1903)が用いた、強い輪郭線で平坦な色面を強調する「クロワゾニスム」という技法も、浮世絵や日本画の影響を受けているとされています。
ゴーギャンは色彩分割による自然描写を試みた印象派の画家たちに対抗するように、画家の外界と内面の主観を同時に反映した絵画の実現を目指す「総合主義」の理念を提唱。クロワゾニスムを用いながら自身のスタイルを確立していきました。
ゴーギャンの理論は、ポール・セリュジエ(1864-1927)をはじめ後進の画家たちにも大きな影響を与え、「ナビ派」創設のきっかけにもなりました。
また、ゴーギャンの作品「説教の後の幻影(天使と戦うヤコブ)」の中には『北斎漫画』からの引用ともとれるポージングも見つかっています。
メアリー・カサット(1844-1926)
メアリー・カサット(1844-1926)は、フランスで活躍したアメリカ出身の女性画家・版画家です。
3大女性印象派画家の一人とされ、フランスで人生の大半を過ごしました。
ジャポニスムに傾倒していたエドガー・ドガ(1834-1917)から多くの影響を受けた彼女の作品にも、やはり浮世絵的な要素が見てとれます。
平面的な色彩や装飾性、輪郭線などがその特徴として挙げられます。
ジャポニズムの影響がみられる代表的な作品
「陶磁の国の姫君」ホイッスラー (1863-1865)
イギリスで活躍したアメリカ人画家 ジェームス・ホイッスラー(1834-1903)。
彼の代表作品の一つ「陶磁の国の姫君」には、着物を着た西洋女性に加え、屏風や団扇、陶磁器など日本的なモチーフが多く含まれています。
この作品は、イギリスの実業家兼アートコレクターが購入し、ロンドン西部のケンジントンにある邸宅のダイニングルームとして作られた「孔雀の間(ピーコック・ルーム)」に設置されました。
部屋中には中国、清時代の染付を中心に陶磁器のコレクションがずらりと並び、その中心に「陶磁の国の姫君」が飾られています。
家主の依頼によって、ホイッスラーはこの部屋の壁を、作品が際立つようピーコック・グリーンに塗り替えました。しかし彼はそれだけでは飽きたらず、家主の許可を得ないまま、壁やドアを埋め尽くすように金色の孔雀を描いてしまいます。
無断で部屋中の壁に孔雀を描いたホイッスラーに家主は激怒し、報酬の支払いを拒否。ホイッスラーは有力なパトロンを失い、二人の争いはタブロイド紙にも載るほど激しいものだったといいます。
現在、「陶磁の国の姫君」はピーコック・ルームとともにアメリカ、ワシントン州のフリーア美術館に移設展示されています。
「エミール・ゾラの肖像」マネ(1866)
エドゥアール・マネ(1832-1883)が、作家で批評家のエミール・ゾラ(1840-1902)をモデルに描いた肖像画の背景には、屏風や歌川国明による力士の浮世絵など、日本的なモチーフが描かれています。
それに加えて、当時サロンで批評家たちに酷評されたマネの作品「オリンピア」の複製画や、過去にゾラがマネの作品を擁護した論評冊子も描かれており、保守的な価値観を持つ当時の西洋美術界に対抗するゾラとマネ、2人の結びつきが的確に表現された作品です。
「ラ・ジャポネーズ」モネ(1876)
ジャポニスムを象徴するモネの作品「ラ・ジャポネーズ」は、高さ2メートルを超える大作です。
妻のカミーユをモデルとして描かれたこの作品には、キモノ・団扇・扇など日本モチーフが詰め込まれており、構図まで菱川師宣の「見返り美人図」によく似ています。
その当時モネは金銭的に困窮しており、ジャポニスムの流行に乗じてコレクターに高値で売却することを狙ってこの作品を制作したと言われています。
1876年4月の第2回印象派展に出品され大きな注目を集め、当時の批評家たちからは特に衣装表現の巧みさが高く評価されました。
印象派展では買い手がつかなかったものの、同月に開催されたオークションで2,010フランという高値で落札されています。
モネは流行に乗ってあからさまな日本趣味を取り入れたことを恥じていたようで、日本趣味を全面にアピールした作品を描くことは本作以降、2度とありませんでした。
「うちわを持つ少女」ルノワール (1881)
劇場の控え室で日本風の団扇を手にポーズをとる女性。
モデルはパリの劇場コメディー=フランセーズの人気女優であったジャンヌ・サマリーと言われています。
背景のストライプの壁紙や、あえてモデルを背後の菊の花束と競い合うように配置した実験的な構図に、日本美術の影響を見て取ることができます。
団扇は1867年のパリ万国博覧会後、お土産品として人気に火が付き、絵画のモチーフとして頻繁に登場するようになりました。
1872年の明治政府による輸出統計には、団扇が100万本輸出されたという記録が残されています。
日本趣味の流行により、ルノワールだけでなく多くの画家が団扇を手に持つ女性像を描きました。
「花魁」ゴッホ(1887)
「花魁」はゴッホが1887年に制作した作品で、1886年の『パリ・イリュストレ』誌5月号(日本特集号)に掲載された、浮世絵師・渓斎英泉による美人画「雲竜打掛の花魁」をもとに描かれたと言われています。
ゴッホはこの絵を描くためにキャンバスにマス目を描いて浮世絵を拡大模写し、その周りを縁取るように睡蓮の咲く池、竹、鶴、蛙を描きました。
花魁の衣装はもちろん、その背景も鮮やかな黄色で彩られ、くっきりとした輪郭線で細かく描きこまれた縁取りからは、ゴッホがいかに浮世絵に傾倒していたかが伺えます。
『パリ・イリュストレ』誌に衝撃を受けたゴッホは、以下の言葉を残しています。
日本が我々に教えてくれるのは、ほとんど新しい宗教のようなものだ。
とてもシンプルでまるで彼ら自身が花々であるかのように自然の中で生きている。
我々はもっと幸せにもっと快活にならなければならない。
そうやって自然に帰らない事には、西欧の習慣や教育を受けた我々には、日本の美術を学ぶことができない。
「タンギー爺さん」ゴッホ (1887-1888)
「タンギー爺さん」はゴッホのパリ時代の作品で、ほぼ同じ構図の作品が2点残っています。
モデルとなった男性は、ゴッホをはじめ印象派の画家たちがよく出入りしていた画材屋の店主 ジュリアン・フランソワ・タンギー(1825-1894)です。
彼は絵具代の代わりに作品を受け取るなど、貧しい画家たちに理解のある人物だったと言われており、ゴッホは彼の肖像画をいくつも描いています。
背景の浮世絵はゴッホが自らコレクションしていた作品の模写とされており、そのうち2点は歌川広重、1点が歌川国定、1点が渓斎英泉の作品とされています。残りの2点の作品は特定されていません。
「魚と花」ジョン・ラファージ(1890)
「魚と花」はアメリカで画家・ステンドグラス作家として活躍したジョン・ラファージ(1835-1910)が、1890年に制作したステンドグラスです。
ラファージは、ルイス・カムフォート・ティファニー(1848-1933)とともにアメリカにおけるステンドグラスのパイオニア的存在として知られています。
1861年に葛飾北斎の浮世絵を目にした彼は、浮世絵の収集を始め、英文による初の日本滞在記や日本美術論を発表するなど、アメリカでのジャポニスムブームの立役者としても活躍しました。
ラファージのこの作品には北斎の「菖蒲に鯉」の影響がみられます。
日本的モチーフである鯉と西洋文化のステンドグラスが統合された美しい作品です。
「庭の女性たち」ピエール・ボナール(1890-1891)
「庭の女性たち」はピエール・ボナールが26歳の時に制作した作品です。
当初、ボナールは縦長の4つのパネルを繋ぎ、屏風のような装飾品としてアンデパンダン展に出品することを計画していましたが、彼はパネルを別々に展示し「装飾パネル」として発表しました。
左端のモデルとなった人物については詳細が分かっていませんが、左から2番目はボナールの妹アンドレ、右側2つはいずれも従姉妹のバーサをモデルに描いたとされています。
庭に佇む女性たちの優美な曲線と草花の模様が響き合い、日本の四季や着物の美しい模様を彷彿とさせます。
「ムーラン・ルージュのラ・グーリュ」ロートレック(1891)
「ムーラン・ルージュのラ・グーリュ」は、今もパリ北部のモンマルトルにあるキャバレー「ムーラン・ルージュ」の宣伝用にロートレックが制作したポスターです。
ロートレックは日本ブームに乗じて日本的なモチーフを描いたり、日本美術をただ模倣する画家たちに対して批判的な姿勢を示し、日本の浮世絵(木版画)に対抗するように、リトグラフ(石版画)を用いてジャポニスムを表現。
それまでただの印刷物とされていたポスターを芸術の域にまで高めた人物と言われています。
中央で白いスカートを纏い踊っているのは、力強い踊りと、客の料理に手を出すほどの食欲で有名だった女性ダンサー、ラ・グーリュです。
その手前には、「骨なしヴァランタン」という愛称で人気を博した男性ダンサーが描かれています。
背後の群衆と手前の男性をシルエットで表現した構図は、浮世絵の影響を受けていると言われています。
「沐浴する女性」メアリー・カサット(1890-1891)
「沐浴する女性」は、メアリー・カサットが1890年にエコール・デ・ボザールで開催された日本の浮世絵展に感銘を受けて制作した多色刷り版画のうちの1つです。
縞模様の衣服とカーペットの装飾性、女性の背中の丸みをとらえた輪郭線などが浮世絵を思い起こさせます。
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ジャポニズム 「流行」としての日本
従来の「ヨーロッパの著名作家に影響を与えた日本文化」という視点ではなく、「人々の間で日本文化がどのように受容され流行したか」という視点でジャポニズムを 読み解いていく新書。ジャポニズムの流行が終焉した後にも続く、モダンアートへの影響についても紹介されています。
ジャポニスム入門
ジャポニスム学会によるジャポニズム入門書。西洋各国でジャポニズムがどのように受け入れられ、応用されていったか国別に章立てで紹介されています。興味深いのはイギリス、フランスは勿論、アメリカや北欧、中央ヨーロッパ、ロシアまで網羅されている点です。カラーの図版も豊富に収録されており、解説とともに作品を堪能できます。
今回はジャポニズムの歴と代表的な画家・芸術家、作品を詳しくご紹介しました。
印象派の誕生と、その後のキュビズムや抽象表現主義へと繋がる美術史の大きな転換点に、日本美術が大きく関わっていたことを理解いただけたでしょうか。
日本から海を越え西洋へ渡った日本文化は、西洋の文化と交わり、ゴッホやモネをはじめとする画家たちの手によって、新しい表現が生み出されていきました。
その後、印象派やアール・ヌーヴォーの芸術家たちの作品は日本へ渡り、今度は日本の芸術家たちにも影響を与えて行きます。
印象派の作品を鑑賞する際には、ぜひジャポニスムとの関連性にも注目してみてください。
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